2014/5/12
人にはそれぞれ長所と短所があります。
どう贔屓目に見ても、長所だけの人間など存在しないように、
いいところの一つもない人間はいないのです。
かつて、ある出版社の社長と話す機会がありました。
彼は、たった一か所でも伝えるべき価値のある情報があるの
であれば、それだけでもその本は出版するに値するんです、
と、断言していました。
『都市は人類最高の発明である』
エドワード・グレイザー著 NTT出版
人にはそれぞれ長所と短所があるように、都市にもまた、長所
と短所があります。
都市について書かれた本は多数あり、本欄でも何冊か紹介して
きました。
もちろん、自分が読んで納得したり感激したりしたからこそ、
お知らせしたい思いで紹介するわけです。
しかし、本書には深く納得できる部分と、少々嫌悪感を覚えたり
鼻白んだりして思わず本を閉じてしまいたくなる衝動を覚える
箇所が混在していて、なんとも取扱いに困るのです。
都市は人が多く集まり密集することで多くの機会を提供します。
新しい文化、事業、娯楽の多くは都市で創出されています。
密集する人口を維持するために、高度なインフラが必要とされ
るために、多くのイノベーションがなされていきます。
しかし、そうした一連の行為は、自然破壊や環境悪化を引き起
こし、不自然さの中で生きる人間は、都市の性格そのものが
産み出す病気や犯罪、不道徳をも生じさせていきます。
私たちは、自然を離れて暮らすことへの危うさを動物的本能
で直感しています。
都市の“便利”という長所の裏には、“不自然”で“不健康”
という短所としての顔が隠れています。
時に応じて長所と短所の顔を見せる都市について意見陳述する
ことは、それだけ難しいのです。
もっとも、長所と短所は同じ事象を別角度から見ているという
側面もあります。
家族にはとても優しくいい父親が、非情なビジネスの世界では、
優しさが脇の甘さとして露呈され、他社との戦いに競り負ける
勝負弱い無能な社員との評価を受けていることがあります。
ある病状に効果的な薬が必ず副作用を持つように、都市に処方
された政治的政策という薬が、新たな病巣を産み出すという
いたちごっこが、果てしなく繰り返されていくのかもしれません。