『自己が心にやってくる』 | 店舗探し.comの過去コラム

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2014/4/24

 

何かについての何か、というときに「メタ~」という接頭語
を使うことがあります。
“小説について書かれた小説”をメタ小説とよび、“理論を
解釈するための理論”はメタ理論と言います。

『自己が心にやってくる ~意識ある脳の構築』
   アントニオ・R・ダマシオ著 早川書房

本書はメタ意識に関する研究書ということになります。
以下、訳者あとがきより抜書きします。

“世の中にはアメーバやゾウリムシなどの、どう見ても心だの、
自己だのといった高級なモノをもちあわせていない生物がいる。

でも、様々な刺激に対して反応を行うことで、攻撃から逃げたり、
エサを探したり、自分の寿命を長引かせるような各種の活動を
行っている。


生物は環境的な条件を、自分の生存に最も適した範囲に収める
ようあれこれ活動する。

人間も、気温が熱すぎれば涼しくなるような対応をとり、腹が
減れば何かを食べようとし、石が飛んで来ればそれを避けよう
とする。


心や自己だって、そうした恒常性維持に貢献するものがあるはず
だ。

・・・暑くて汗が出るとき、別にぼくたちはことさら「暑い」と
感じる必要はない。自動的に汗を流していてもよい。
でも、かなり熱い場合、汗を出す一方でもっと涼しい方に移動
しよう、クーラーをつけよう、などといった行動をあわせて取っ
たほうが、生き延びるためにはもっといい。


それを実施するための仕組みが感情となる。

意識的な対応をとらせるために、情動を意識させる仕組みが、

ダマシオのいう感情だ。

生物は、あらゆる刺激を横並びに見て、合理的な評価を下し、
対応するのではない。そこに感情にもとづいた価値づけを行い、
行動を行っているというわけだ。情動や感情がないと、人は
優先順位づけができなくなってしまう。


様々な刺激をまとめあげ、原始的感情がそこにくっつけた重要性
に応じた処理を行うのが自己だ。”

生物進化の過程で、「自己」もどんどん発展します。
ついに自己は「記憶」が持てるようになりました。


かつての行動の主体だった「自己」と、いまそれを想起している
「自己」との連続性が生じると、いわば自伝的な自己となります。
時間の中で連続性を持った自己が可能になることで、過去の経験
からの学習が可能になります。

意識を意識する自己は、学習し、将来を予測できるようになります。


生物が持つ社会性も、人間が作り上げた文明や文化もすべてが、
「環境的な条件を、自分の生存に最も適した範囲に収め、恒常性
を維持」させるために自己を進化させてきた結果だというわけです。

戦争や破壊的兵器、取り返しのつかない事故を起こした原発もまた
人間が作り上げてきたものです。
しかし、いずれも人間の恒常性維持とは直線的に結びつかないから
こそ、私たちは直覚的に嫌悪感を持つのだと知れます。

恒常性を維持するための恒常的な仕組みを構築することこそが、
私たちがこれからなすべき使命なのでしょう。