呼吸は無色!? | 店舗探し.comの過去コラム

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2010/3/10

 

「日米の密約はあった!」
 
・・・らしいです。

大人の事情と大人の都合で、あったかなかったか、見たか見なかった
か、確認したかしなかったか、いずれと決着をつけずに、鈍感を決め
込んで知らないふりをしていたということなのでしょう。
 
見たり聞いたり、嗅いだり味わったり、触ったり感じたり・・・

 

どんな刺激を受けたとしても、リアクションせずに、いったんその場
ではそ知らぬふりをしておくものなのです。
空気を読み、呼吸をはかった上で、おもむろに適切な反応を返せばよ
ろしい。
これが、大人というものなのですから。
 
純白にして無垢。

たよりなげで傷つきやすい。

誰にもあったはずの、少年少女時代のデリケートな感受性はいつ、ど
こへ行ってしまうのでしょう。
 
都会の汚れた空気、苦渋の思いと一緒に吸い込んだタバコの煙、恋

の切なさに思わず漏らすため息・・・。

喜怒哀楽に染められた様々な経験が、時間の経過とともに積み重ね

られていきます。

 

1回1回の呼吸は無色に見えていても、片思いのため息は、ピンクがか
っていたのでしょうし、悔しさの舌打ちは、濁った音色を発していた
はずです。
吸ったり吐いたりを無数に繰り返すうちに、それらの色は混ざり合っ
て灰色になります。絵の具の色をすべて混ぜれば灰色になるように。
 
大人としての履歴を重ねれば重ねるほどに、灰色は限りなく黒に近づ
きかつての無垢な時代の気配など、どこを探しても露ほども見つかり
ません。
 
『吉祥寺の朝日奈くん』 中田永一著 詳伝社
 
自分のおなかが鳴る音が周囲に聞こえるのを恐れて、図書館や映画
館など静かな場所に行くのにもおびえる女子高生を主人公にした
「うるさいおなか」をはじめ、表題作など5話の中篇小説が収められ
ています。

どれもが、高校生世代の、たわいなくもすがすがしい、ほのかな恋愛
の顛末を綴ったものです。


読後感は全くもって爽やかで、かつて誰にもあった健気で頼りない、
無垢な時代を思い出させてくれるはずです。 
清濁併せ呑む、酸いも甘いも噛み分けた大人と言われる人ほど読んで
いただきたい一冊です。

 

ただし、容姿に自信の無いおじさんが、通勤電車で読むのなら、カバ
ーを掛けるのを忘れずに!
この本を読んだ女子高生に見つかると気味悪がられるかもしれませんよ。