木漏れ日 | 店舗探し.comの過去コラム

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2013/8/28

The ancient pond
A frog leaps in
The sound of the water.

Old pond — frogs jumped in — sound of water.

pond
frog
plop!

old pond
a frog leaps in —
a moment after, silence

dark old pond
:
a frog plunks in

上記はいずれも「古池や蛙飛び込む水の音」を英訳したものです。
1番目がドナルド・キーン(鬼怒鳴門)さん、2番目はラフカディオ・
ハーン(小泉八雲)といういずれも日本国籍を取得した日本通による
ものです。
しかし、どれを読んでも、芭蕉の描いたニュアンスにしっくりくる
ものはありません。
言葉が文化である以上、異文化言語への翻訳がむずかしい言葉があ
るのは当然です。

「Iktsuarpok」はイヌイット語です。これを一言で表す言葉は日本語
にはありません。意味は「誰か来たかもしれないと思ってついつい
外を見に行ってしまう気持ち」です。
他にも、

・Culaccino(イタリア語):テーブルについた冷たいグラスの跡
・Waldeinsamkeit(ドイツ語):森の中でひとりぼっちでいる気分
・Dépaysement(フランス語):なにか自分の国のものではないとい
 う雰囲気
・Pochemuchka(ロシア語):あまりにたくさんの質問をするひと
・Sobremesa(スペイン語):食事を一緒にした相手と話し足りなく
 て、食後に話し込む時間

以上のように、日本語では一言で言い表すことができない言葉が、
それぞれの言語に存在します。
雪と氷に閉ざされて家族単位で暮らすエスキモーの人たちは、他人を
待ちわびることに関する語彙が多くなり、自国文化にプライドを持つ
フランスに、よその国の文化との違いを表現する言葉が豊富にあるこ
とは理解できます。

昼食に立ち食いそばや牛丼をあわただしく掻っ込んでおしまいの日本
人に、食事に関する言葉が乏しいのは当然でしょう。

しかし、海外でも有名な「侘び」「寂び」が日本人の独特な精神世界
を表出しているように、四季の変化に富んだ自然に対する日本人の
感性はデリケートで、言葉には不自由しません。

今日のタイトルである「木漏れ日」という言葉も、少なくとも英語圏
には存在しないようです。
木立から漏れる柔らかな日差しを特別なものと感じて一語で表現する
豊かな感性をはぐくんできた日本文化を、次世代以降にもきちんと
受け渡していかなければならないのです。