やめられない、とまらない | 店舗探し.comの過去コラム

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2014/8/30

「やめられない、とまらない~」

かっぱえびせんの有名なキャッチフレーズは1969年にCM放送されました。カルビーはこの効果で売上高を飛躍的に伸ばすことに成功しました。

かっぱえびせんに限りません。スナック菓子は、いったん袋を破って食べ始めると、次から次と手が伸びてしまい、途中でやめるのはなかなか難しいものです。

『フードトラップ ~食品に仕掛けられた至福の罠』(日経BP社)

という本が話題となっています。著者はピューリッツアー賞を受賞したマイケル・モス氏です。

“「人が食べ物を選ぶときに真っ先に考えるのは、栄養のことではありません。
考えるのは、味や風味、つまり満足感です。
ヒトは確かに甘味を好みますが、それはどの程度の甘味でしょうか。
食べ物や飲み物のあらゆる原材料について、感覚系の満足が最大になる濃度というものがあります。この濃度が至福ポイントです。至福ポイントは強力な現象で、われわれが自覚以上に食べたり飲んだりしてしまうのも至福ポイントによるものです」”(本書より)

加工食品をヒットさせるには、至福ポイントを探り当てることが重要です。
食品会社の目的は、消費者の満足を高めながらもコストを抑え利益を最大にすることです。本書によれば、最も有効な方法は、塩分・糖分・脂肪分を最大限に活用することです。

スナック菓子だけではありません。コーラやスポーツドリンク、ピザやパスタなどの冷凍食品など、あらゆる加工食品に共通して言えるのです。

かっぱえびせんの原材料は小麦粉、植物油、でん粉、えび、砂糖、食塩、膨脹剤、調味料(アミノ酸等)、甘味料(甘草)。1袋26gあたりの栄養成分はエネルギー:128kcal、たんぱく質:1.7g、脂質:5.7g、炭水化物:17.5g、ナトリウム:244㎎(0.6g)、カルシウム:33㎎となっています(カルビーHPより)。

つまり、かっぱえびせんには塩分・糖分・脂肪分すべてが入っており、全体の22%は脂質が占めています。
ちなみにマクドナルドのダブルチーズバーガーには3.2gの食塩が、500mlのコカ・コーラには53gの砂糖が使われています。

恥ずかしながら、食品会社の戦略にいともたやすく乗せられてしまい、既にメタボ男子と化している私の体脂肪率は、かっぱえびせんよりはるかに高い値です。
しかし、私だけが特別に異常なわけではありません。現代人の多くは、塩分・糖分・脂肪分を過剰摂取していることが指摘されています。そしてそのことが原因となって引き起こされる健康被害は、社会的に無視できないレベルになっています。

デジタルアーツの発表によると、女子高生の携帯電話・スマートフォン1日の平均使用時間は6.2時間です。9時間以上使用している割合も20%を超えています。男子高生の平均使用時間は4.2時間。
いずれにしても高校生は寝ている間と授業時間以外はのべたらスマホをいじっている計算になります。

彼らから一斉にスマホを取り上げてしまったら、いったいどんな禁断症状が起きるのでしょうか。
高校生の至福ポイントを的確に探り当てたスマホですが、若者の将来になにやら不穏なものを感じるのは私だけでしょうか。

虐殺、人種迫害、覇権主義、戦争、核開発・・・。

いったん勢いがつくと途中でやめられないのは、人類のDNAに組み込まれた本能だからでしょうか。『うらおもて人生録』(色川武大著 新潮文庫)の中に次のような一節があります。

“俺たち、戦争をしってるからね。
見わたすかぎり焼け跡で、ああ、地面というものは、泥なんだな、と思ったんだね。
そのうえに建っている家だとか、自動車だとか、人間だとか、そんなものはみんなお飾りであって、本当は、ただの泥なんだ、とあのとき知ったんだ。
だからね、戦争が終わって、また家が建ち並んで、人間がうろうろするようになったけれども、これは何か普通じゃない。
ご破算で願いましては、という声がおこると、いっぺんに無くなっちゃって、またもとの泥に戻る・・・。”

色川氏の教訓は東日本大震災を経験した私たちの実感でもあります。
しかし、わずか3年しかたっていないというのに、私たちは地面が泥だということをすでに忘れかけているようです。

このままの状況が続いていけばいずれ人類は皆、肥満が長じて歩くことがほとんどできなくなるでしょう。外出は億劫になり、皆、家に閉じこもりがちになります。
そして薄暗い部屋の中でポテトチップスをかじりコーラを流し込みながら1日中スマホをいじり続けるのです。

ああ、やめられない、とまらない。

テレビのワイドショーでは芸能人の麻薬使用を巡る裁判が大きく報じられています。
あってはならぬ、けしからんと非難する人も、無関心な人も、自分たちが既に深刻な中毒患者だとの自覚は無いでしょう。
しかしこうしている間にも私たちはハンバーガーにかぶりつき、スマホを操作しています。

やめるな、とまるなと急き立てる大きな力によって、絶えず至福ポイントは刺激され、思うようにコントロールされつつあるのです。
気がつけばこの一文を書いている間に、53gの砂糖を体内に摂取してしまいました。コーラではなく水しかなかったら、まだまだ作業は終わっていなかったでしょう。