2010/07/16
高橋お伝、雷お新、夜嵐お絹、蝮のお政、雲霧のお辰・・・。
『近世悪女奇聞』
綿谷雪著 中公文庫
本書には、幕末から明治の前半期にかけて、悪名を振りまいた
悪女・毒婦ばかりが17人登場します。
時勢の急変によって、従来の社会環境は破綻し、底辺生活者
として世間と渡り合うことを余儀なくされた彼女達は、なりふり
構わず、身体を張って生き凌いでいきます。
押し込み強盗、美人局、放火、殺人・・・。
運命に見放され、暗い欲望に突き動かされながら、彼女達が
選んだ手段は、悪事でした。
失敗と逃走の明け暮れを繰り返しながら、次第に生活は荒廃
し、最後は敗残の淵へと追い落とされてしまうのです。
目前の現実に必死に戦い、苦しみ、あえいでいても、良心や
貞操、正義などとは無縁で、その行動はどこまでも浅ましく
低俗で、みみっちいものです。
最後には極刑に処せられた者も、自ら命を絶った者も、行方
知れずになってしまった者もいます。
それにもかかわらず、本書を読み終わった後には、卑小で
浅はかな悪女達に、どこか心惹かれていることに気付くかも
知れません。
平凡で無難だけれども、どこか濃度の薄い、不充足な日常を
送っていると自覚している人にとっては、彼女達の濃密で、
コクのある生涯が、案外、羨ましかったりするのでしょう。