2013/1/16
「ずいぶん白髪が増えましたねえ。」
髪を切りに行ったら、店主に言われ、改めてじっくりと
鏡を眺めてみたら、なるほどずいぶん白っぽくなってい
ました。
「白髪見っけ!あたしが抜いてあげる。」
可愛いことを言って、たまに生えてきた白髪がなくなる
まで一生懸命抜いてくれていた娘も、いつか父親の髪の
毛よりも、自分の眉毛を描くことに熱心になり、洗面所
で鉢合わせすると舌打ちをするような憎たらしいオンナ
になってしまいました。
それにしても一体いつの間にこんなに白髪が増えてしま
ったのでしょう。
いや、よく見ると額の生え際までが後退しかかっている
気がします。
「20歳の1年は20分の1である。60歳の1年は60分の1であ
る」
とは、フランスの哲学者・ポール・ジャネーの言葉です。
この世に生を受けた瞬間から、人間は次々と新しい経験
を積んでいきます。
初めて立ち上がって「高さ」を知り、歩けるようになっ
て「空間」を知ります。
公園デビューをして「社会」を知り、初恋で「ときめき」
を覚えます。
見ること、聞くこと、味わうこと、匂うこと、触ること。
全てが未知で新鮮で、刺激に満ちていた世界を夢中で生
きていた子ども時代の時間は濃密なのです。
しかし、年を重ねていくうちに、初めての経験をする機
会は減っていきます。
見慣れた風景には何の感慨も持てず、話を聞いても本を
読んでも、すべては、いつかどこかで聞いたり読んだり
したことと似たり寄ったりで、心は動きません。
それと気づかないうちに時間は加速度を増し、ふさふさ
した黒髪はあっというまに白髪となりました。
瞬きを、ほんの2,3度したぐらいのつもりで鏡を見たら、
白髪どころか髪の毛自体がほとんど無くなって、皺だら
けしみだらけの老人となっているのかもしれません。
凡人は鏡の前でため息を吐き続け、ただでさえ残り時間
の少なくなった人生を無駄遣いをするばかりだというの
に、同じ老いの気配が頭髪に現れても、大きな業績をな
し、全速力で走り続ける人は言うことが違います。
「髪の毛が後退しているのではない。 私が前進してい
るのである。」
歴史に偉大な名前を残すこととなるに違いないソフトバ
ンク孫正義さんの、これも歴史に残る名言となることで
しょう。