太宰治さんとサイモン&ガーファンクルさんに架ける橋 | てんぱりまっくす~あるいは、スクナビコナ~のブログ

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一度ツイッターに浮気しましたが、やはりこちらのほうが落ち着くようです。

ただいま(/-\*)

【革命と恋】


いままで世間のおとなたちは、この革命と恋の二つを、最も愚かしく、いまわしいものとして私たちに教え、戦争の前も、戦争中も、私たちはそのとおりに思い込んでいたのだが、敗戦後、私たちは世間のおとなを信頼しなくなって、何でもあのひとたちの言う事の反対のほうに本当の生きる道があるような気がして来て、革命も恋も、実はこの世で最もよくて、おいしい事で、あまりいい事だから、おとなのひとたちは意地わるく私たちに青い葡萄だと嘘ついて教えていたのに違いないと思うようになったのだ。私は確信したい。人間は恋と革命のために生れて来たのだ。

ーー太宰治さん「斜陽」より。


太宰治さん「斜陽」の一節は私に、サイモン&ガーファンクルさんの「ミセス・ロビンソン」の一節を想い起こさせた。



Hide it in a hiding place where no one ever goes Put it in your pantry with your cupcakes 

It's a little secret, just the Robinson's affair 

Most of all, you've got to hide it from the kids


【部分超訳】

一休さんのとんち話みたいに、甘くて美味しいカップケーキを、「これは毒だから食べてはいけないのよ」と子供に言うのも一つの手。

それでも心配なら、「パントリーのネズミ退治に、毒入りカップケーキを仕掛けたのよ」と言っても良い。

いずれにせよ、とにかく子供たちにロビンソン家の小さな秘密を嗅ぎ付けられないよう用心することですね。












ところで太宰治さんの小説に「人間失格」があるが、TBSのテレビドラマには「人間・失格」がある。この作品のテーマ曲がサイモン&ガーファンクルさんの「冬の散歩道」だった。




だからなんだ、と聞かれると何も答えられないのだが、太宰治さんとサイモン&ガーファンクルさんとの間には、「縁」があるように私には思われる。


ネオンサインの閃光に切り裂かれ、音のない世界の住人となる


コミュニケーションの不能、というテーマは太宰治さん「人間失格」、サイモン&ガーファンクルさん「サウンド・オブ・サイレンス」に共通するものだろう。


(前略)
「罪。罪のアントニムは、何だろう。これは、むずかしいぞ」
 と何気無さそうな表情を装って、言うのでした。
「法律さ」
 堀木が平然とそう答えましたので、自分は堀木の顔を見直しました。近くのビルの明滅するネオンサインの赤い光を受けて、堀木の顔は、鬼刑事の如く威厳ありげに見えました。自分は、つくづく呆れかえり、
「罪ってのは、君、そんなものじゃないだろう」
(中略)
「ツミの対語は、ミツさ。蜜の如く甘しだ。腹がへったなあ。何か食うものを持って来いよ」
「君が持って来たらいいじゃないか!」
 ほとんど生れてはじめてと言っていいくらいの、烈しい怒りの声が出ました。
「ようし、それじゃ、したへ行って、ヨシちゃんと二人で罪を犯して来よう。議論より実地検分。罪のアントは、蜜豆、いや、そら豆か」
 ほとんど、ろれつの廻らぬくらいに酔っているのでした。
「勝手にしろ。どこかへ行っちまえ!」
「罪と空腹、空腹とそら豆、いや、これはシノニムか」
 出鱈目を言いながら起き上ります。
 罪と罰。ドストイエフスキイ。ちらとそれが、頭脳の片隅をかすめて通り、はっと思いました。もしも、あのドスト氏が、罪と罰をシノニムと考えず、アントニムとして置き並べたものとしたら? 罪と罰、絶対に相通ぜざるもの、氷炭相容れざるもの。罪と罰をアントとして考えたドストの青みどろ、腐った池、乱麻の奥底の、……ああ、わかりかけた、いや、まだ、……などと頭脳に走馬燈がくるくる廻っていた時に、
「おい! とんだ、そら豆だ。来い!」
 堀木の声も顔色も変っています。堀木は、たったいまふらふら起きてしたへ行った、かと思うとまた引返して来たのです。
「なんだ」
 異様に殺気立ち、ふたり、屋上から二階へ降り、二階から、さらに階下の自分の部屋へ降りる階段の中途で堀木は立ち止り、
「見ろ!」
 と小声で言って指差します。
 自分の部屋の上の小窓があいていて、そこから部屋の中が見えます。電気がついたままで、二匹の動物がいました。
 自分は、ぐらぐら目まいしながら、これもまた人間の姿だ、これもまた人間の姿だ、おどろく事は無い、など劇しい呼吸と共に胸の中で呟き、ヨシ子を助ける事も忘れ、階段に立ちつくしていました。
(中略)
ただ、夏の一夜、ヨシ子が信頼して、そうして、それっきり、しかもそのために自分の眉間は、まっこうから割られ声が嗄れて若白髪がはじまり、ヨシ子は一生おろおろしなければならなくなったのです。
(後略)
ーー太宰治さん「人間失格」より。




When my eyes were stabbed by the flash of a neon light
That split the night
And touched the sound of silence

【部分超訳】
ネオンライトの閃光が私の目に突き刺さり、夜の闇を真っ二つに切り裂いたとき、私は音が聞こえない世界の住人となった。
ーーサイモン&ガーファンクルさん「サウンド・オブ・サイレンス」より。


女性は、出帆するーー「斜陽」と「明日に架ける橋」


このような手紙を、もし嘲笑するひとがあったら、そのひとは女の生きて行く努力を嘲笑するひとです。女のいのちを嘲笑するひとです。私は港の息づまるような澱んだ空気に堪え切れなくて、港の外は嵐であっても、帆をあげたいのです。憩える帆は、例外なく汚い。私を嘲笑する人たちは、きっとみな、憩える帆です。何も出来やしないんです。
 困った女。しかし、この問題で一ばん苦しんでいるのは私なのです。この問題に就いて、何も、ちっとも苦しんでいない傍観者が、帆を醜くだらりと休ませながら、この問題を批判するのは、ナンセンスです。私を、いい加減に何々思想なんて言ってもらいたくないんです。私は無思想です。私は思想や哲学なんてもので行動した事は、いちどだってないんです。
ーー太宰治さん「斜陽」より。


Sail on silver girl 出帆するのだ

Sail on by 月光で銀色に輝く乙女よ

Your time has come to shine

今こそ君が輝くときがきた

All your dreams are on their way

君の夢の全てが叶う道筋が整った

See how they shine

この道がどんなに輝かしいかをご覧

Oh, if you need a friend

寂しかったら

I'm sailing right behind

僕がすぐ後ろをついていってあげよう
いつでも君に助け舟を出せるように

Like a bridge over troubled water

洪水の上を渡れる橋のように

I will ease your mind

君の心の洪水を解決してあげよう

Like a bridge over troubled water

涙で何も見えなくなってしまった君の

I will ease your mind

心の燈台になろう

ーーサイモン&ガーファンクルさん「明日に架ける橋」より。



日没の
あとにお出まし
銀の月
航海の無事
見守る燈台