屋根の上の恋泥棒
だまって居れば名を呼ぶし、近寄って行けば逃げ去るのだ。メリメは猫と女のほかに、もうひとつの名詞を忘れている。傑作の幻影という重大な名詞を!
ーー太宰治さん「猿面冠者」より。
空の蒼く晴れた日ならば、ねこはどこからかやって来て、庭の山茶花のしたで居眠りしている。洋画をかいている友人は、ペルシャでないか、と私に聞いた。私は、すてねこだろう、と答えて置いた。ねこは誰にもなつかなかった。ある日、私が朝食の鰯を焼いていたら、庭のねこがものうげに泣いた。私も縁側へでて、にゃあ、と言った。ねこは起きあがり、静かに私のほうへ歩いて来た。私は鰯を一尾なげてやった。ねこは逃げ腰をつかいながらもたべたのだ。私の胸は浪うった。わが恋は容れられたり。ねこの白い毛を撫でたく思い、庭へおりた。脊中の毛にふれるや、ねこは、私の小指の腹を骨までかりりと噛み裂いた。
ーー太宰治さん「葉」より。
魚ならたやすく盗む泥棒猫
あの子のハートはそうはいかない
魚だったらわけにゃいのに
恋となったらてんでダメ
魚一匹盗めぬ猫が
あの子のハート盗んでら
気楽さん、いつもありがとうございます