新説 僕が描いた天使 9
翌日から敦子は悠に挨拶するようになった。
悠が席に着くと敦子はくるっと後ろを向いて“おはよう”と一言。
悠はこれが毎朝楽しみでしょうがなかった。
ようやく敦子もクラスに馴染んできた5月の半ば。
健や慎也や友美達は大会が近づいていて忙しそうだ。
敦子は美術部に行っている。悠は一人で帰らなければ行けない。帰宅部の運命だ。
まぁ敦子がいた所で誘う勇気が悠にあるのかと言えば怪しい所だ。
「前田さん。絵の具足りてる?」
「あっ、大丈夫です。」
「もう1ヶ月近く経つし敬語じゃなくて大丈夫だよ?しかも同じクラスだし?」
キャンバスに向かって筆を走らせている敦子に由紀が声をかける。
「真っ白な…雪景色?」
由紀が敦子のキャンバスを見て首を傾げる。
「ううん。これから花畑になるんです。」
「真っ白な花畑か…あっ、敬語敬語!」
由紀が頷きながら呟いてまた敦子が敬語で話している事に気づく。
しばらくして敦子や他の部員が帰ろうとする中、由紀はまだキャンバスに向かっていた。
「まだ帰らないんですか?」
「うん。もう少しやって行こうかな?あっ、敬語敬語!」
「あっ…」
由紀がぷっと吹き出しながら笑う。
「じゃあね前田さん。」
「あっ…じゃあ…ね。」
ちょっと頑張って敬語を抑えた敦子に向かって由紀が親指を立てる。
「夢中になりすぎた~。」
すっかり外は暗くなっている。由紀は体育館への通路との合流地点に差し掛かった。
『ドン』
「痛っ!」
由紀は誰かとぶつかりしりもちを着く。
「イテテ…すいま…お、緒方君!?」
「大丈夫か…って何でそんな驚くの?」
由紀が顔を上げると慎也が立っていた。
「あ、あ、あのごめん、ごめんなさい!だ、大丈夫?け、ケガとか無い?」
由紀は立ち上がり異常に早口ど慌てている。
「ぷっ…」
「えっ?」
慎也が吹き出し、由紀は首を傾げる。
「柏木ってそんなキャラなんだ?おもしろ。てか俺は大丈夫だけどお前大丈夫か?」
「えっ…えぇ…大丈夫!全然!じゃあ!ごめんなさい!」
由紀は顔を赤らめて走って行った。
「ハハハあんなキャラなんだ。」
慎也が呟いて歩きだす。
「慎也~!智と一緒にサイゼ行くけど来る?」
後ろの方から友美の声がして、慎也が振り返る。
「野球部も終わってるみたいだから健も連れてこうぜ?」
「えーあいつまた吉野家がいいとかいいだすぞ~?」
慎也が窓の外を見ながら言うと、智美の嫌そうな声が廊下に響いた。
こんな感じに時間は過ぎて大会はあっという間にやって来た。
悠が席に着くと敦子はくるっと後ろを向いて“おはよう”と一言。
悠はこれが毎朝楽しみでしょうがなかった。
ようやく敦子もクラスに馴染んできた5月の半ば。
健や慎也や友美達は大会が近づいていて忙しそうだ。
敦子は美術部に行っている。悠は一人で帰らなければ行けない。帰宅部の運命だ。
まぁ敦子がいた所で誘う勇気が悠にあるのかと言えば怪しい所だ。
「前田さん。絵の具足りてる?」
「あっ、大丈夫です。」
「もう1ヶ月近く経つし敬語じゃなくて大丈夫だよ?しかも同じクラスだし?」
キャンバスに向かって筆を走らせている敦子に由紀が声をかける。
「真っ白な…雪景色?」
由紀が敦子のキャンバスを見て首を傾げる。
「ううん。これから花畑になるんです。」
「真っ白な花畑か…あっ、敬語敬語!」
由紀が頷きながら呟いてまた敦子が敬語で話している事に気づく。
しばらくして敦子や他の部員が帰ろうとする中、由紀はまだキャンバスに向かっていた。
「まだ帰らないんですか?」
「うん。もう少しやって行こうかな?あっ、敬語敬語!」
「あっ…」
由紀がぷっと吹き出しながら笑う。
「じゃあね前田さん。」
「あっ…じゃあ…ね。」
ちょっと頑張って敬語を抑えた敦子に向かって由紀が親指を立てる。
「夢中になりすぎた~。」
すっかり外は暗くなっている。由紀は体育館への通路との合流地点に差し掛かった。
『ドン』
「痛っ!」
由紀は誰かとぶつかりしりもちを着く。
「イテテ…すいま…お、緒方君!?」
「大丈夫か…って何でそんな驚くの?」
由紀が顔を上げると慎也が立っていた。
「あ、あ、あのごめん、ごめんなさい!だ、大丈夫?け、ケガとか無い?」
由紀は立ち上がり異常に早口ど慌てている。
「ぷっ…」
「えっ?」
慎也が吹き出し、由紀は首を傾げる。
「柏木ってそんなキャラなんだ?おもしろ。てか俺は大丈夫だけどお前大丈夫か?」
「えっ…えぇ…大丈夫!全然!じゃあ!ごめんなさい!」
由紀は顔を赤らめて走って行った。
「ハハハあんなキャラなんだ。」
慎也が呟いて歩きだす。
「慎也~!智と一緒にサイゼ行くけど来る?」
後ろの方から友美の声がして、慎也が振り返る。
「野球部も終わってるみたいだから健も連れてこうぜ?」
「えーあいつまた吉野家がいいとかいいだすぞ~?」
慎也が窓の外を見ながら言うと、智美の嫌そうな声が廊下に響いた。
こんな感じに時間は過ぎて大会はあっという間にやって来た。
新説 僕が描いた天使 8
バスケ部の練習が終わってから、慎也が体育館に戻ってくる。
自主練習の為だ。
しかし先客がいるようでボールの音が聞こえる。
『ザシュ』
「ナイッシュー。毎日毎日お疲れ様だな練習後に。」
「慎也か。あんたもいつもやってんでしょ。」
慎也が声をかけると友美は驚いて振り向いてからボールを取りに行く。
「ったくさ。入っても戻って来ないんだよ。あいつのシュートみたいに…」
「ははは…あいつのシュートは綺麗過ぎるからな。」
友美はボールを取り、スリーポイントラインに戻っていく。
その後ろ姿を慎也は優しく微笑みながら見つめている。
「バッカヤロ~!」
『ザシュ』
友美が叫びながらシュートを放つ。
ボールは宙を舞い、ゴールを直接くぐる。
「ハハハ…ナイッシュー。」
慎也が苦笑いで友美の方を向く。
一方二人は…
「ごめんなんかすっかり遅くなっちゃって…」
「ううん。大丈夫。今日家帰っても一人だから。」
街を案内している内に、辺りが暗くなっている。
敦子の悲しげな微笑みに悠は少しドキッとする。
「あのさ…飯食べない?」
「えっ?ご飯…?三上君は大丈夫なの?」
その言葉を聞いて悠は敦子を引きつれてある場所に向かった。
「ちょっと見た目悪いけど味はサイコーだから。」
「あっ…うん…」
二人は店の中に入って行く。
「佳代ちゃんまだ大丈夫?」
「いらっしゃ~い大丈夫大丈夫~!って…健じゃない!?あら~?あらあら~?悠くんあんたも隅に置けないねぇ~?」
佳代がカウンターから出て来る。
悠の後ろに立っている敦子を見て、佳代が悠を茶化し始める。
「ち、ちげぇよ!転校生!街案内してるから汚い店見せてやろうかと思って。」
「汚い言うな!この清潔感!」
悠もお返しと言わんばかりに言葉を返す。
「ぷぷっ…」
「あっ!笑ったねぇ~!?」
「あっ…すいません…」
「冗談だよ!笑うとまた可愛いね~!早く座りな?」
二人がカウンターに座る。
悠がカルボナーラを頼むと敦子も同じくカルボナーラを頼む。
しばらくして二人の前にカルボナーラが出される。
「美味しい…」
「おっ!今美味しいって言った!分かってるねぇ~!」
「お世辞に決まってんだろ。」
敦子が一口食べてた後に一言溢す。
それを聞いて喜ぶ佳代に悠がぼそっと一言。
「コラコラ~!」
「お世辞じゃないです!本当に!本当に美味しいです!さっき三上君も味は…」
「あぁ~前田さん!それ言わなくていい事だから!」
敦子が真剣に佳代に言おうとするのを、悠が慌てて敦子の言葉を遮る。
「えっ?何何~?悠くん分かってるよ!悠くんがお姉さんの事が好きな・の・は」
「誰が相撲取りに惚れるか。」
「ちょっ…待て待てぇ~!誰が相撲取りじゃ!」
「ぷぷっ…」
「ちょっ…敦子ちゃんまで…」
「あっ…すいません…」
この後も笑いの絶えない時間が過ぎて行く。
「よし。そろそろいくよ。」
「ご馳走様でした。」
敦子が財布を取り出そうとする。
「あぁ~いいよいいよ!可愛い笑顔いただきましたし!また来てね?」
「えっ…でも…」
「大丈夫だから。行こ。じゃあまたね佳代ちゃん。」
そう言って最後まで申し訳なさそうにしている敦子を連れて悠が店から出て行く。
「佳代ちゃんは絶対に俺達から金取らないから。」
「いい人なんですね。」
「遅くなったし送って行くよ。」
二人は家に向かって歩きだす。
敦子の家と悠の家の方向が一緒で悠の家の近くまでやってきた。
悠の家まで数十メートル手前の十字路で敦子が立ち止まる。
「ここでいいですよ。」
「家まで…」
「大丈夫。すぐそこだから。今日は本当にありがとうございました。じゃあまた明日。」
そう言って敦子は十字路を左に曲がって行く。
敦子が少し強く断ったように見えたが、悠は深くは考えず、十字路を真っ直ぐ歩きだした。
悠は風呂に入り、ベッドに倒れこむ。
《あぁ~なんか楽しかった…健とか板野とかといるときと違う感じの…ああいう感じなのかなデートって…》
「って俺何考えてんだ!」
悠がベッドにうつ伏せになる。
しかし悠の頭はぼぉーとしたままだった。
暗い部屋の中電気も点けずに敦子は悲しそうな表情で鏡を見つめている。
「やっと…やっと…」
月明かりが敦子の顔をぼんやりと写し出した。
自主練習の為だ。
しかし先客がいるようでボールの音が聞こえる。
『ザシュ』
「ナイッシュー。毎日毎日お疲れ様だな練習後に。」
「慎也か。あんたもいつもやってんでしょ。」
慎也が声をかけると友美は驚いて振り向いてからボールを取りに行く。
「ったくさ。入っても戻って来ないんだよ。あいつのシュートみたいに…」
「ははは…あいつのシュートは綺麗過ぎるからな。」
友美はボールを取り、スリーポイントラインに戻っていく。
その後ろ姿を慎也は優しく微笑みながら見つめている。
「バッカヤロ~!」
『ザシュ』
友美が叫びながらシュートを放つ。
ボールは宙を舞い、ゴールを直接くぐる。
「ハハハ…ナイッシュー。」
慎也が苦笑いで友美の方を向く。
一方二人は…
「ごめんなんかすっかり遅くなっちゃって…」
「ううん。大丈夫。今日家帰っても一人だから。」
街を案内している内に、辺りが暗くなっている。
敦子の悲しげな微笑みに悠は少しドキッとする。
「あのさ…飯食べない?」
「えっ?ご飯…?三上君は大丈夫なの?」
その言葉を聞いて悠は敦子を引きつれてある場所に向かった。
「ちょっと見た目悪いけど味はサイコーだから。」
「あっ…うん…」
二人は店の中に入って行く。
「佳代ちゃんまだ大丈夫?」
「いらっしゃ~い大丈夫大丈夫~!って…健じゃない!?あら~?あらあら~?悠くんあんたも隅に置けないねぇ~?」
佳代がカウンターから出て来る。
悠の後ろに立っている敦子を見て、佳代が悠を茶化し始める。
「ち、ちげぇよ!転校生!街案内してるから汚い店見せてやろうかと思って。」
「汚い言うな!この清潔感!」
悠もお返しと言わんばかりに言葉を返す。
「ぷぷっ…」
「あっ!笑ったねぇ~!?」
「あっ…すいません…」
「冗談だよ!笑うとまた可愛いね~!早く座りな?」
二人がカウンターに座る。
悠がカルボナーラを頼むと敦子も同じくカルボナーラを頼む。
しばらくして二人の前にカルボナーラが出される。
「美味しい…」
「おっ!今美味しいって言った!分かってるねぇ~!」
「お世辞に決まってんだろ。」
敦子が一口食べてた後に一言溢す。
それを聞いて喜ぶ佳代に悠がぼそっと一言。
「コラコラ~!」
「お世辞じゃないです!本当に!本当に美味しいです!さっき三上君も味は…」
「あぁ~前田さん!それ言わなくていい事だから!」
敦子が真剣に佳代に言おうとするのを、悠が慌てて敦子の言葉を遮る。
「えっ?何何~?悠くん分かってるよ!悠くんがお姉さんの事が好きな・の・は」
「誰が相撲取りに惚れるか。」
「ちょっ…待て待てぇ~!誰が相撲取りじゃ!」
「ぷぷっ…」
「ちょっ…敦子ちゃんまで…」
「あっ…すいません…」
この後も笑いの絶えない時間が過ぎて行く。
「よし。そろそろいくよ。」
「ご馳走様でした。」
敦子が財布を取り出そうとする。
「あぁ~いいよいいよ!可愛い笑顔いただきましたし!また来てね?」
「えっ…でも…」
「大丈夫だから。行こ。じゃあまたね佳代ちゃん。」
そう言って最後まで申し訳なさそうにしている敦子を連れて悠が店から出て行く。
「佳代ちゃんは絶対に俺達から金取らないから。」
「いい人なんですね。」
「遅くなったし送って行くよ。」
二人は家に向かって歩きだす。
敦子の家と悠の家の方向が一緒で悠の家の近くまでやってきた。
悠の家まで数十メートル手前の十字路で敦子が立ち止まる。
「ここでいいですよ。」
「家まで…」
「大丈夫。すぐそこだから。今日は本当にありがとうございました。じゃあまた明日。」
そう言って敦子は十字路を左に曲がって行く。
敦子が少し強く断ったように見えたが、悠は深くは考えず、十字路を真っ直ぐ歩きだした。
悠は風呂に入り、ベッドに倒れこむ。
《あぁ~なんか楽しかった…健とか板野とかといるときと違う感じの…ああいう感じなのかなデートって…》
「って俺何考えてんだ!」
悠がベッドにうつ伏せになる。
しかし悠の頭はぼぉーとしたままだった。
暗い部屋の中電気も点けずに敦子は悲しそうな表情で鏡を見つめている。
「やっと…やっと…」
月明かりが敦子の顔をぼんやりと写し出した。
新説 僕が描いた天使 7
「えっと…前田…さん?」
「はい。あってますよ?」
ドアの所で立っている敦子に悠が自信無さげに尋ねると敦子は少し首を傾げ微笑む。
「バスケの練習行かないんですか?」
「体育ん時見てた?違うんだよ俺はバスケ部じゃないから。」
敦子がもう一度先ほどと同じ事を聞くと、悠は苦笑いしながら顔の前で左手を振る。
「そうですか……何部なんですか?」
「俺は帰宅部だから帰宅部!ハハハ……」
敦子が自分の席に座って言うと、悠は苦笑いしながら頭をかく。
「でもこの学校部活強制じゃないんですか?」
「俺は特別だからハハハ…」
敦子が少し眉をひそめて首を傾げる。
悠は苦笑いで返す。
不覚にも敦子の表情にドキッとしてしまう。
(やっぱそっくりだ……自販機で会ったのと同一人物だよな?聞いてみようかな……)
「へぇ~…どうしよう…運動苦手だし…美術部にしよ。」
敦子が部活希望用紙にシャープペンシル走らせる。
「美術部は体育館に続く廊下を左に曲がってすぐの美術室でやってるから。じゃあ……」
「待って!」
親切に場所を教えてから帰ろうとする悠を敦子が急に引き止めた。
悠が振り向くと敦子は席から立ち上がっていた。
夕日が差し込んだ教室に静寂が流れる。
「ジュース!いっちに!ジュース!いっちに!」
智美が奇妙な掛け声を発しながら学校から一番近い自販機にやって来た。
「なんだサボりか?」
「わっ!?なんだ健か……ビックリした……サボりじゃないもん!ジュース買いに来たのっ!わっ!?」
いきなり現れた健に智美が飛び上がってから言い返す。
健から投げられた何かを智美は危ない所でキャッチする。
「やるよ。部活サボんなよな下手くそなんだから。」
「下手くそ言うな~!バカ健~!」
智美が走り去って行くユニフォーム姿の健の背中に叫んでから手に握られているスポーツドリンクに視線を落とす。
「気まぐれに優しいんだから……サンキュ……」
智美はペットボトルの蓋を開けて二度三度喉を鳴らしてから呟いて、体育館に向かって走りだした。
中学二年の宿泊研修……
山登り…
お世辞にも整備されているとは言えない山道を四人の生徒が歩いている。
「誰だよ~熊さんコース行こうって言ったの~!」
「お前だっ!」
「お前だっ!」
「お前だっ!」
息を切らしながらうんざりそうに言った健に悠、ともともが声を合わせて怒鳴る。
健が苦笑いで頭をかく。
スタート地点には亀さんコース、ウサギさんコース、熊さんコースの三つがあり、亀から順に安全な道だ。しかしもちろん時間はかかってしまう。
一番につきたいからという理由で苔だらけの熊さんコースの看板を指差したのは健だった。
『ガサガサッ……』
茂みから急に聞こえた音に四人が一斉に飛び上がる。
「きゃっ!?」
苔に足を滑らした智美が声をあげてくにゃんと女の子座りで座り込む。
「智大丈夫!?」
心配した友美がすぐに智美の元に駆け寄る。
「もぉやぁだ~!」
座り込んだまま顔をあげた智美は泣きべそをかきながら天を仰ぐ。
「頑張ろうよ智~……ほら!」
友美が手を引き智美を立たせるが智美の左足首に激痛が走る。
「いったぁ~い~もぉやぁだ~!」
また女の子座りで座り込み泣きべそをかく。
どうやら捻挫してしまったようだ。
「んっ。」
泣きべそをかく智美の前に背を向けた健がしゃがみ込む。
「ふぇ?」
「早くおぶされよ。早く行かないとトップなれねぇだろ!」
「でも……」
「大丈夫だよ! 練習でチームメイトおぶって階段登ってっから! それに熊さんコース選んだの俺だし……」
「うん……」
泣きべそをかきながら智美が健の背中におぶさり、健が立ち上がる。
「お前……重いな」
「ばぁか~!」
立ち上がった健が苦笑いで言うと、おぶさっている智美が泣きべそをかきながら両手で健の頭を叩く。
「いててっ!? やめろ! わかった悪かった! 前言撤回! 」
山道に健の声が響く。
この後無事四人はゴールする事が出来たが、違う意味で“一番”だった。
教室……
「な、何?」
悠が尋ねると、敦子が歩いて近づいてきた。
「見学は明日にして、今日は三上君にこの街を案内してもらおうかなって思って……」
「な、なんで俺が!?」
敦子が上目遣いで首を傾げる。その表情にまたドキッとしたが悠はなんとか言い返す。
まぁ内心まんざらでも無い。
「この間の“十円玉”のお礼って事で」
敦子が悠にニコッと微笑みかける。
「あっ…やっぱあん時の……」
悠が敦子を指差す。
夕日が差し込んだ教室のカーテンが優しい春風で揺れた。
「はい。あってますよ?」
ドアの所で立っている敦子に悠が自信無さげに尋ねると敦子は少し首を傾げ微笑む。
「バスケの練習行かないんですか?」
「体育ん時見てた?違うんだよ俺はバスケ部じゃないから。」
敦子がもう一度先ほどと同じ事を聞くと、悠は苦笑いしながら顔の前で左手を振る。
「そうですか……何部なんですか?」
「俺は帰宅部だから帰宅部!ハハハ……」
敦子が自分の席に座って言うと、悠は苦笑いしながら頭をかく。
「でもこの学校部活強制じゃないんですか?」
「俺は特別だからハハハ…」
敦子が少し眉をひそめて首を傾げる。
悠は苦笑いで返す。
不覚にも敦子の表情にドキッとしてしまう。
(やっぱそっくりだ……自販機で会ったのと同一人物だよな?聞いてみようかな……)
「へぇ~…どうしよう…運動苦手だし…美術部にしよ。」
敦子が部活希望用紙にシャープペンシル走らせる。
「美術部は体育館に続く廊下を左に曲がってすぐの美術室でやってるから。じゃあ……」
「待って!」
親切に場所を教えてから帰ろうとする悠を敦子が急に引き止めた。
悠が振り向くと敦子は席から立ち上がっていた。
夕日が差し込んだ教室に静寂が流れる。
「ジュース!いっちに!ジュース!いっちに!」
智美が奇妙な掛け声を発しながら学校から一番近い自販機にやって来た。
「なんだサボりか?」
「わっ!?なんだ健か……ビックリした……サボりじゃないもん!ジュース買いに来たのっ!わっ!?」
いきなり現れた健に智美が飛び上がってから言い返す。
健から投げられた何かを智美は危ない所でキャッチする。
「やるよ。部活サボんなよな下手くそなんだから。」
「下手くそ言うな~!バカ健~!」
智美が走り去って行くユニフォーム姿の健の背中に叫んでから手に握られているスポーツドリンクに視線を落とす。
「気まぐれに優しいんだから……サンキュ……」
智美はペットボトルの蓋を開けて二度三度喉を鳴らしてから呟いて、体育館に向かって走りだした。
中学二年の宿泊研修……
山登り…
お世辞にも整備されているとは言えない山道を四人の生徒が歩いている。
「誰だよ~熊さんコース行こうって言ったの~!」
「お前だっ!」
「お前だっ!」
「お前だっ!」
息を切らしながらうんざりそうに言った健に悠、ともともが声を合わせて怒鳴る。
健が苦笑いで頭をかく。
スタート地点には亀さんコース、ウサギさんコース、熊さんコースの三つがあり、亀から順に安全な道だ。しかしもちろん時間はかかってしまう。
一番につきたいからという理由で苔だらけの熊さんコースの看板を指差したのは健だった。
『ガサガサッ……』
茂みから急に聞こえた音に四人が一斉に飛び上がる。
「きゃっ!?」
苔に足を滑らした智美が声をあげてくにゃんと女の子座りで座り込む。
「智大丈夫!?」
心配した友美がすぐに智美の元に駆け寄る。
「もぉやぁだ~!」
座り込んだまま顔をあげた智美は泣きべそをかきながら天を仰ぐ。
「頑張ろうよ智~……ほら!」
友美が手を引き智美を立たせるが智美の左足首に激痛が走る。
「いったぁ~い~もぉやぁだ~!」
また女の子座りで座り込み泣きべそをかく。
どうやら捻挫してしまったようだ。
「んっ。」
泣きべそをかく智美の前に背を向けた健がしゃがみ込む。
「ふぇ?」
「早くおぶされよ。早く行かないとトップなれねぇだろ!」
「でも……」
「大丈夫だよ! 練習でチームメイトおぶって階段登ってっから! それに熊さんコース選んだの俺だし……」
「うん……」
泣きべそをかきながら智美が健の背中におぶさり、健が立ち上がる。
「お前……重いな」
「ばぁか~!」
立ち上がった健が苦笑いで言うと、おぶさっている智美が泣きべそをかきながら両手で健の頭を叩く。
「いててっ!? やめろ! わかった悪かった! 前言撤回! 」
山道に健の声が響く。
この後無事四人はゴールする事が出来たが、違う意味で“一番”だった。
教室……
「な、何?」
悠が尋ねると、敦子が歩いて近づいてきた。
「見学は明日にして、今日は三上君にこの街を案内してもらおうかなって思って……」
「な、なんで俺が!?」
敦子が上目遣いで首を傾げる。その表情にまたドキッとしたが悠はなんとか言い返す。
まぁ内心まんざらでも無い。
「この間の“十円玉”のお礼って事で」
敦子が悠にニコッと微笑みかける。
「あっ…やっぱあん時の……」
悠が敦子を指差す。
夕日が差し込んだ教室のカーテンが優しい春風で揺れた。
