~ボクの綿毛、遠くまで飛んで行け!~音楽、マンガ時々AKB -2ページ目

新説 僕が描いた天使 6

「三上君?聞いてる?」

ようやく耳に届いた声が英語教師の篠田の声だったので英語の授業だという事に気づく。


「あっ、すんません。」
「二行目から読んで。」

悠は急いで教科書を開き、隣の生徒に場所を教えてもらっている。



「悠、朝からぼぉーとしてるよね。」
「まさかあの転校生の前田ちゃんに一目惚れしたんじゃねぇのか?」

「悠に限ってそれは無いでしょ。恋とか無関係だから、悠は。」
健と智美がこそこそ話をしていると篠田がそれに気づく。

「そこの二人うるさい!」
「あっ!篠田先生すいません!こいつが話し掛けてくるもんで!俺は先生の授業聞きたくてしょうがないのに…」
「はっ…サイテー…」
必死に言い訳する健を見て、智美が小さな声で吐き捨てた。



渦中の敦子はというと別室でテストを受けている。



そして六限目。
みんなはジャージに着替えて体育館に向かう。
A組とB組は体育の授業は一緒だ。


生徒が全員ジャージ姿で集合した。

「今日は最初の授業だから自由だ!」
体育教師の坂田の爽やかな微笑みで言った。

各自体操を済ませて、バスケやバドミントンを始める。

坂田の周りには女子の人だかり。その中には智美の姿もある。



「ちっ…あんなののドコが…」
「河西取られて悔しいのか?」
「うわっ!?なんで俺があんな奴…てか俺は爽やか教師に負けてるのがムカつくの!それに俺には篠田先生がいるんだよ!」
二人は壁にもたれて座って話をしていた。
その光景を見て舌打ちした健に悠がニヤニヤしながら言った。
健は少しあたふたしてから腕を組んでふてくされる。



「悠。」
いきなりかけられた声に悠が振り向くと、バスケットボールが飛んでくる。
危ない所でキャッチして、飛んで来た方向を見る。
そこには慎也が立っていた。


「1ON1しようぜ?」
「いいけどさ~現役引退しちゃってんのよ?俺。」
慎也がクイクイと手招きする。
悠の表情は言葉とは裏腹にヤル気満々だ。



慎也の攻めから始まる。

ゆっくりドリブルをしながら近づいて行く。

『キュッ』
いきなり一気にスピードを上げて、慎也が悠を抜こうとする。

しかし悠は慎也に着いてくる。


「俺お前と何年やってっと思ってんのよ。」
「まだまだ。」
慎也が足の下を通しながらドリブルを始める。

悠に向かって突っ込む。

『んっ!?』
一瞬悠の体が強ばる。

『スルッ』
慎也は悠の前に出した足を軸にしてくるっと一回転して悠の横に並びそのままの勢いで抜き去った。


『ザスッ』
簡単なレイアップシュートを決め、慎也が悠にボールを投げる。


「やっぱ速いねぇ慎ちゃん。」
「まぁ慎也が速いのもあるけど…あのバカ。練習してないな…」
二人の戦いを見ていた智美が友美に話し掛ける。
友美が悠を冷ややかな目で見る。
この二人も一応女子バスケ部だ。



「でもあいつには…」
友美がボソッと呟く。



「慎也。次…俺の番だよな?」
悠がニヤリと不適な笑みを浮かべながら、数歩後退する。

《あっ…やべっ…》
慎也がゴールの下から急いで悠の元に走りだす。


『フワッ』
悠はゆったりとしたフォームでゴールに向かってシュートする。


慎也がジャンプして手を伸ばすが一瞬遅く、届かない。


『サッ…』
悠が放ったボールは宙を舞いリングに当たる事無く、ゴールをくぐる。


「生意気にフォームだけは綺麗なまま…」
「やっぱ悠のスリーは綺麗だね~。」
友美が呟いてドコかに歩いていく。
智美もその後を追いかける。


「あっ。あれ転校生の…」
友美が角に一人で座っている生徒の元に向かう。






「よし。俺スリー決めたから俺の勝ち。」
「待てよ。もう終わりかよ?」
「バカ言えよ俺は帰宅部だぜ?もう息上がっちゃって…」
悠はそう言って健の元に向かって歩いていく。


「お前バスケ部マジで戻んねぇの?別に戻っていいんだろ?」
「顧問とかはそう言ってっけど戻る気は無いね。」
健が戻って来た悠に言うと、悠はさらっと答えて汗を拭う。





「健!健!面白いから早く来て!」
二人の元に智美が走ってやってくる。
言われるがまま二人は智美に着いて行く。

体育館の角の方に少し人だかりが出来ている。


「なんだなんだ?」
「あっちゃんがね面白いの!」
健が背伸びしながら言うと、智美が笑いを堪えて言った。

「あっちゃん?」
「あぁ、転校生!敦子だからあっちゃん!」
悠が首を傾げる。
人だかりを掻き分けて前に出ると敦子が不思議な動きをしている。言葉では説明出来ない動きだ。



「な、何やってんだ…アレ…」
「なんかあっちゃんと話してたら…スキップ出来ないって話になって…アハハ!ヤバイ!」
悠が友美に尋ねると、友美は今にも笑い出しそうな声で言った。



《アレが…スキップ…》
悠は敦子の動きを見てただ苦笑いするしかなかった。


しかしこれがきっかけで敦子はみんなと早く馴染む事が出来た。




すべての授業が終わり、それぞれ部活などに向かう。

健も野球部の練習に行ってしまったため悠は一人だ。

誰もいない教室で自分の席に座ってぼぉーとしている。




高校一年の秋…
体育館…


「ふざけんな!」
悠の右の拳が先輩の顔に向かって突き出された。

鈍い音と共に先輩が倒れる。

「やめろ!三上!」
一人の先輩が悠を押さえる。


「ふざけんじゃねぇ!先輩面して調子乗りやがって!」
押さえられても悠はまだ暴れている。







「ふぅ…つまんねぇ事思い出した。」
悠はシュートを打つふりをする。


「練習行かないんですか?」
いきなりの一言に悠はビックリして振り返った。
振り向くと見覚えのある顔が立っていた。

新説 僕が描いた天使 5

悠は結局何も買わずに、家まで帰って来た。
あまりに似すぎていて頭から離れない。



恵令奈達が帰って来ても、悠は心ここに在らずといった感じだ。

「違うよ!恵令奈でも分かる!」
恵令奈がテレビに向かって言った。
テレビではクイズ番組が放送されている。

悠もソファーに座りながらテレビの方を見ていたが、内容など見ていない。ただそちらを向いているだけ。

食卓に夕食のメニューが並んで行く。




「お兄ちゃん…?」
「ん…?」
何か不思議なものを見るような目で恵令奈が悠を見る。
悠がようやく我に返る。



「それ…美味しいの?」
恵令奈のこの一言に悠は自分の手元にゆっくり視線を落とす。



「うわぁ!や、やべ!」
気づくと悠の手にはソースが握られていて、ご飯に並々とソースが注がれている。


「な、何やってんの!」
母が急いでソースご飯を片付けて、新しくご飯を茶碗に盛って来た。


無事夕食を食べ終えて、悠は風呂に入る。

湯船に浸かりながらも、頭に浮かんでくるのはあの自動販売機の前で会った女の子の事ばかり。

風呂から上がり、ベッドに倒れ込む。



「あぁ~あ…それにしてもあの娘…似すぎだよな…」
天井を見上げながら悠はボソッと呟いた。




『トントン』
しばらくぼぉーとしていた悠はノックの音にはっとして上体を起こす。
ドアの前まで行き、開けると恵令奈が申し訳なさそうに立っていた。



「なんだよ。」
「あのさ…お兄ちゃん恵令奈が玄関のドアぶつけた事怒ってんの?」
恵令奈の突拍子もない一言に悠は拍子抜けする。
しかし様子がおかしかった自分の原因になったのではとここに来たのだと思うと自然と表情が和らぐ。



「ハハハ!ちげぇよ!まぁまだ鼻はいてぇけどな?」
「ごめん…」
「気ぃ使ってくれたんだろ?サンキュ。」
悠は優しく微笑んで恵令奈の頭を乱暴に撫でる。



「ちょ…お風呂上がりなんだらやめて…よ!」
「わりぃわりぃ!じゃ、俺は怒ってねぇから。気にすんな。」
悠がそう言ってドアを締めようとすると、恵令奈が引き止める。


「怒ってないなら…お詫びに買って来たプリン食べていい…?」
恵令奈が上目遣いで悠にねだる。


「勝手に食え。でもまた太るぞ。」
『バン』
悠はそう言ってすぐドアを閉めた。
外では恵令奈がドアを叩いている。今恵令奈に“太る”というワードは禁句なのだ。




「はぁ…恵令奈が気使うほどぼぉーとしてたか…」
悠はベッドに横になって呟いた。
恵令奈のおかげで少し頭が働くようになってきた。

喧嘩も多いがなんだかんだいい兄妹なのである。
気がつくと悠は深い眠りに落ちていた。







翌日の学校。



いつも通りの朝のHR。


「昨日は休んでいたが今日からこのクラスに入る転校生の…」


《あぁ~また天使に会いたいなぁ~…》
悠は机に突っ伏してあの自動販売機の前で会った女の子の事を思い出していた。

《はい。》
悠の頭の中にあの時の女の子の言葉と微笑み、風景が甦る。




『ガラガラ』
一人の女子生徒が教室に入ってくる。



「では自己紹介を。」
「はい。」
秋元に自己紹介をするように言われて、女子生徒が返事をする。

どこかで聞き覚えのある声に悠はゆっくり顔を上げる。


「転校して来ました前田敦子です。よろしくお願いします。」
敦子はゆっくりお辞儀をする。




《て、天使…》
悠の視線は敦子に釘付けになった。

これが悠と“前田敦子”との物語の始まりだった。

新説 僕が描いた天使 4

『カランカラン』
入り口が開く。鈴の音が店内に鳴り響き、話し声と共に悠と健が店内に入って来た。


「よっ!佳代ちゃん!」
健がカウンターの向こう側にいる女性に声を掛けながらカウンターに座る。
悠も隣に座る。



「あんた達うるさいよ?他のお客様に迷惑でしょ?」女性はグラスを拭きながら少し顔をしかめて言った。
彼女は野呂 佳代。
学生の頃からちょこちょこ手伝っていたこの店も今では両親が佳代に押しつけている状態だ。


「お客様って…どこ?」
「常連も俺らしかいねぇのにな。」
その言葉に健が辺りを見渡してから佳代の方を見る。
悠がボソッと一言こぼす。


「うるさ~い!常連くらいいるわ!」
「誰。」
反論した佳代にすかさず悠が続ける。
佳代はまた怯む。



「ともともとか…後…この頃来ないけど慎也とか…」
「はい!結局俺らしかいない!」
「ちょっと!ちゃんと常連いるって!こっちに帰って来たら絶対ここに寄ってくれる…」
「はい!もういいから!腹減ってんの!ハンバーグとライス!あっ、大盛ね!」
「ちょっ…人の話は最後まで…」

「俺はカルボナーラで。」
「てめぇら…」









しばらくして食欲をそそる匂いと共にハンバーグとカルボナーラが出てくる。



「いただきま~す。」
「ちょっと佳代ちゃん!ライスは?大盛って言ったじゃ…」
『ガシャン』
「ん…」
健がライスを催促をし終わる前に、皿に日本昔話に出てくるように並々と盛られた白い山が健の前に現れた。


「“大盛”でしたよねお客様?」
「ちょっ…これは…フードファイターレベルの…」
「お客様お残しになりますと代金が倍額になりますが?」
「ちょっと待った!なんか大食いチャレンジみたいになってんだけど!?」
佳代がさっきのお返しとばかりにまくしたてる。
ニヤニヤするその表情はもはや悪魔だ。


「おい。悠…」
「お前が大盛って言うからだろ。」
「ぐっ…よし…食ってやろうじゃんか!」




数十分後…


「うはぁ。やっぱうめぇ。佳代ちゃんのカルボナーラは最高。これマジで。」

「サンキュー悠。まぁあたしの腕にかかればね?」
悠の言葉に佳代は気分を良くして腕を見せつける。

健はライスの大半を残してテーブル席のテーブルに横になっている。


「意地になってたな。ハンバーグ一個でアレ足りる訳ねぇのに最後の方はライスだけかきこんでたし。」

「いやぁ…あたしも冗談のつもりが…でも結構食べたね?」
佳代が頭をかきながら苦笑いしてライスを片付ける。
しばらく横になっていた健が起き上がり、二人は帰る事にした。


「じゃあ佳代ちゃん帰るわ。」
「おぅ!また来いよ!」
「親方!ちゃんこ旨かったっす!」
「そうかそうか…って相撲取りじゃねぇよ!」
二人は立ち上がり、財布を取出しながら言った。
佳代がノリツッコミを決める。


「あぁ金はいいよ。出世払いで。てかカッコいい人紹介してくれれば。」
「ここにいんじゃんよ~。」
「黙れ小僧。」





二人はノンTeaを後にした。
佳代は昔から悠達から代金を取ろうとしない。
だから頻繁に来るのが申し訳ないという所もある。



二人は別れ、それぞれの家に向かう。


悠が玄関の取っ手に手を掛けようとした時だった。


『ゴツッ』
いきなりドアが開き、悠は顔面を強打する。
ドアの後ろから恵令奈がそぉっと顔を出す。


「恵令奈…てめぇ…」
「ご、ごめんなさい!」

「あっ!待て!あの野郎…」
恵令奈は一目散に車まで逃げる。

「悠。お母さん恵令奈をピアノ教室に置いてから恵令奈終わるまで買い物して時間潰して帰って来るから。留守番、ね?」
「了解了解。恵令奈に覚えとけって言っといて。」
そう言って悠は家の中に入って行く。


着替えを済ませて、ソファーに倒れるように座る。


《喉乾いた…げっ…何もねぇ…自販機行くか。》
冷蔵庫を開けた悠は中を隅々まで見渡した後、手に数枚の硬貨を握りしめて一番近い自販機に向かった。




《コーラ…コーラ》
『チャリン』
自販機に入れようとした十円硬貨が地面に落ちて転がる。


悠はそれを目で追った。
それは誰かの靴に当たり地面に倒れる。


しゃがみ込んで取ろうとすると相手は悠より早くしゃがんで十円硬貨を拾いあげる。
黒髪の女の子、顔は髪で隠れている。


「はい。」
女の子が十円硬貨を差し出す。

「あっ…すい…ません」
悠は一瞬驚き、十円硬貨を受け取る。
女の子は微笑んでから歩いて行った。



悠はしばらく動けなかった。
何故ならば今目の前にいた女の子が“あの夢”に出てくる“天使”に瓜二つだったからだ。


《似てた…めっちゃ…》
悠はしばらく女の子の方を向いていたままの状態で立ち尽くしていた。


しばらくして悠を待ちきれなくなった自販機が硬貨を吐き出す音が辺りに響いた。