読書メモ「風に舞い上がるビニールシート」(森絵都) | IN THE WIND

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(ネタバレあり)

未読の作家の作品を書店で物色中、第135回直木賞受賞作ということで手にした。6篇から成る短編集で、カバー裏表紙の 普通に生きているわたしたちの日常の出来事が、こんなにドラマティックに鮮やかに描かれるなんて! という編集者の推しの言葉の前段には同意できないけれど、ラストにサプライズを仕込んだストーリーはそれぞれにユニークで読み応えがあった。


最後に収録されている表題作は国連難民高等弁務官事務所の東京事務所(UNHCR)で広報を担当する国際公務員の里佳が主人公。親の仕事で高校までシカゴで暮らし、大学時代にロンドン留学。バリバリのバイリンガルで新卒で入った外資系投資銀行から転職し、UNHCRでは上司の米国人エドと国際結婚というのだから、「普通に生きているわたしたち」には程遠い。


それでも、仕事と家庭の優先度をめぐる夫婦間のせめぎ合い、自身のキャリアアップへの迷いといった普遍的なテーマを、国連機関のエリート夫婦の関係に違和感なく落とし込んだ物語にスッと引き込まれる。現場主義に徹して海外での勤務を望むエドと、子どもや家庭的な生活を手にしたい里佳は結局7年で婚姻関係を解消することになる。


2年後、エドは赴任先のアフガニスタンで亡くなる。元夫とはいえ大きなショックに里佳は仕事が手に付かず、ミスを繰り返した。そして上司は「荒療治」として東京採用で一般職の里佳に、海外の現場で難民支援に携わる専門職への転身を前提にアフガン勤務を勧める。それはかつてエドが望んだことでもあったが、里佳には過酷な海外勤務に就く覚悟がなかった。


上司の提案と同じ日、里佳はアフガンの難民支援状況について記者の取材を受けたのだが、その記者は現地でエドの最期の様子を取材していた。それを聞かされた里佳は専門職への転身を決意する。「私をアフガンに行かせてください」。ラストシーンから逆算して綿密に練られたであろう物語は、里佳が上司に返事をするセリフで鮮やかに締めくくられる。


他の5篇は、売れっ子パティシエの気まぐれに振り回される秘書役の女性が主人公の「器を探して」、保護犬活動の費用を捻出するためにスナックでバイトを始めた主婦を描いた「犬の散歩」、大学夜間部でレポートの代筆を請け負う謎めいた社会人女子大生の秘密を解く「守護神」、仏像修復師という特異な業界の人間模様が交錯する「鐘の音」。


さらに商品にクレームをつけてきた顧客への謝罪に赴く通販誌の編集者と納品業者の若手社員が交わす車中での会話で構成する「ジェネレーションX」。カバー裏表紙によると 自らの信念や価値観を守って黙々と生きる人々を描く のがテーマとあるが、無理やり括ることもない。一つ一つの作品に力があり、読者を十分満足させられる短編集だ。(文春文庫)


【24日の備忘録】

昼前、岡山へ。休肝日2日目。朝=ご飯1膳、ウインナーとエリンギのソテー、リンゴ、昼=レタス炒飯、夜=牛肉とセロリ炒め。体重=60キロ。