読書メモ「黄色い家」(川上未映子) | IN THE WIND

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川上作品は芥川賞作「乳と卵」、そして海外でも評価の高かった「ヘブン」を読んで以来なので10年以上ぶり。前者はほぼほぼ理解できず、後者も表面的なストーリーは追えるけれど理解したとは到底言えなく、この作家は僕にとっても難敵だった。それでも、いつかまた読んでみたいという思いがあり、書店の話題書コーナーで見かけて思い切って手にしてしみた。

 

スナック勤めの母親と二人暮らしで、居場所のない高校とバイト先のファミレス以外に社会との接点がなかった伊藤花は17歳の夏、家出同然で母の友人だった黄美子と暮らし始めた。黄美子が知人から受け継いだスナック「れもん」を一緒に切り盛りし、やがて花と同世代の蘭、桃子も加わった共同生活が始まる。


黄美子から、風水で黄色は金運がアップする色だと教わった花は黄色のグッズを集め、部屋の片隅に「黄色コーナー」を作った。本書のタイトルにもつながる。客にも恵まれた「れもん」の経営は順調で、学校で友達がいなかった花にとって、蘭や桃子としゃべり倒すことすら遅れて来た「青春」のようだった。


ところが、入居していたビルの火災で「れもん」は焼失してしまう。花は「れもん」再建の資金を稼ごうと、黄美子の古くからの友人で裏社会と繋がりがあった安映水の紹介でカード詐欺の出し子役となる。生来は善良な人柄の花は「犯罪」に手を染めるプレッシャーに知らず知らずのうちに追い詰められてゆく。


いつの間にか「黄色い家」では、稼ぎ頭の花が世帯主のように振る舞い、稼ぎのない蘭と桃子を「支配」するような関係となる。蘭と桃子も巻き込んだ出し子で稼いだ金はたまっていったが、取り分を巡って蘭と桃子が花に反旗を翻したのをきっかけに、疑似家族とも言えた「黄色い家」はあっけなく崩壊する。


作者は何を描こうとしたのか。高校中退で資格もなく保険証もない花や蘭、親と対立し家にも学校にも馴染めない桃子、発達系の障害と思しき生きづらさを抱える人物として描かれる黄美子、そして在日3世の映水。家族や社会から切り離された人々を包摂できない日本社会のありようを問いかけているのか。


花をはじめとする人物造形が巧みで、心情や情景を鮮やかに映し出す描写力も際立つ。一文が長めで独特のリズムがある文章も心地よく、平易な言葉で力のある物語を紡ぎ出す。このメモを書くために何度か部分的に読み返した時も、気がつけばかなり先まで読み耽ってしまったほどだ。(中央公論新社)

 

【28日の備忘録】

朝=ご飯1膳、塩サバ、リンゴ、昼=ベーコンとキノコのオイルソーススパゲティ、ミニトマトと茹でブロッコリー。飲酒=赤ワイン6杯。体重=60.4キロ。