映画メモ「メンゲレと私」 | IN THE WIND

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ナチス・ドイツによるユダヤ人を標的にしたホロコーストをめぐる連作ドキュメンタリーとしてオーストリアの映像プロダクションが生存者らにインタビューした「ホロコースト証言シリーズ」の第3作にして最終作。アウシュビッツ収容所の医師で残忍な人体実験を繰り返したヨーゼフ・メンゲレの悪行を目にした生存者のユダヤ人男性がカメラの前で証言する。

 

宣伝大臣ゲッベルスの秘書として働いたドイツ人女性にインタビューした第1作の「ゲッベルスと私」(2016年)、強制収容所を生き抜いたユダヤ人男性が証言する第2作の「ユダヤ人の私」(2021年)と同様、モノクロ映像で一人の証言者に焦点をあてて強制収容所の実態や被収容者の心情などを語らせ、状況説明として当時の宣伝映画や記録映像も交えられる。

 

本作で証言したリトアニア出身のダニエル・ハノッホ(撮影時89歳)は9歳から解放されるまでの44カ月間、各地の強制収容所で過酷な日々を強いられた。12歳で移送されたアウシュビッツでは死体の運搬作業に従事させられ、旧ソ連軍が迫るとドイツ西部へ向かう「死の行進」も経験。オーストラリアの強制収容所ではカニバリズムも目撃したという。

 

労働できるかどうかによって子供たちを選別するメンゲレの前で、ハノッホは恐怖を顔に出さず、背筋を伸ばして強い人間であることをアピールしたという。一方でメンゲレに「選ばれず」自分が死ぬことを悟った仲間の一人が「僕にはもう必要ないから」とパンを差し出したという。年端もいかない子供にそんな諦念を抱かせた凄絶な運命は想像を絶する。

 

無蓋車で酷寒の中を運ばれ、寒さをしのぐために凍った仲間の死体の下に潜り込んだという証言も、生き延びる術を身に付けられたとアウシュビッツを「良い学校」と皮肉を込めて呼んだ証言もしかり。最後にたどり着いたオーストリアでは街中を行進させられ、店に商品があふれ、着飾った人々を初めて見たが、その人たちは傍観するだけだったという。

 

イスラエルとハマスが再び戦火を交える中、この映画を公開することに対しては様々な憶測を呼びそうだけれど、パンフレットに収録された監督インタビューによると、ハノッホは武力行使とそれに対する報復は何も解決しないという立場だそうだ。(2021年・オーストリア、監督:クリスティアン・クレーネス、フロリアン・ヴァイゲンザマー、96分)

 

 

【10日の備忘録】

朝=そぼろ飯1膳、リンゴ、昼=ラーメン炒飯(外食)。飲酒=赤ワイン5杯。体重=59.8キロ。