映画メモ「ドライブ・マイ・カー」 | IN THE WIND

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自分のための備忘録。音楽とスポーツ観戦、飲み食い、時々本と映画
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(ネタバレあり)

昨年のカンヌ国際映画祭で脚本賞、今年に入って全米映画批評家協会賞で作品賞、監督賞、脚本賞、主演男優賞の4冠、第79回ゴールデングローブ賞で非英語映画賞、第49回米アカデミー賞で国際長編映画賞と受賞ラッシュが続いた濱口竜介監督の話題作。昨年8月の封切からロングランの上映となってそろそろ客足も落ちてくるかと思い、土曜の午前を狙って行ってみたら案の定ガラガラだった。長編なので身構えていたけれど、意外にもあっという間に過ぎた180分だった。

 

原作の村上春樹の小説は雑誌掲載時(2013年)に読んだきりでほぼ内容は忘れていた。映画を見た後で当時の読書メモを確認してみたら、亡くなった妻の不貞を直視できないまま喪失感を抱えていた主人公の俳優兼演出家・家福悠介が、自家用車の運転手となった渡利みさきの言葉に救われるという物語の軸は変わらなかった。ただ、原作ではぼんやりと示唆されていたことが、映画で新たなエピソードを付け加えることで踏み込んで描かれていた気がする。

 

妻の不貞を知りながら見て見ぬふりをしていた家福はある日、出がけに妻から今夜話したいことがあると言われたものの、知りたくない事実を明かされるかもしれないと怖気づいて家に帰ることができなかった。車で当てもなくさまよって深夜に帰宅すると妻はくも膜下出血で倒れていてそのまま帰らぬ人となった。もう少し早く帰っていれば妻は助かったかもしれない。家福は妻の不貞という現実から逃げ続けたことで妻を死なせてしまったという悔恨を抱えて生きていく。

 

一方のみさきは母親から虐待を受けて育っていた。18歳の時、母親と暮らしていた実家が地滑りに巻き込まれて倒壊、自分だけ瓦礫から這い出したが、母を助けようとも助けを呼ぼうともしなかった。これらはシーンとしてではなく、みさきの回想として語られる。そうして母を見殺しにしたことを明確に意識して生きるみさきの言葉で、家福は自分の弱さを自覚し、向き合うべき現実を見つめ直す。暗い影を抱える者同士が心を通わせることでたどりついた救済の物語なのかもしれない。

 

劇中劇の稽古で、家福が俳優陣に情感抜きで脚本を読むよう指示し、みさき自身のセリフが棒読み調だったのは、感情を殺して生きてきた家福の心の表れだったのか。この長編に込めた濱口監督の狙いは僕のようなぼんくらには測り知れないけれど、みさきが韓国のスーパーで買い物をし、ワンコを乗せた家福の車を運転するラストシーンは、家福とみさきの二人の新たな世界を示唆しているのだろうか。(監督:濱口竜介、日本・2021年、179分)

 

濱口作品の映画メモ↓

原作(雑誌掲載時)の読書メモ↓

https://ameblo.jp/tenotookaoka/entry-11726677720.html

 

【23日の備忘録】

朝=ご飯1膳、ベーコンとエリンギのソテー、リンゴ、昼=焼きそば、ミニトマトと茹でブロッコリー。飲酒=赤ワイン5杯。体重=61.8キロ。