読書メモ「AX」(伊坂幸太郎) | IN THE WIND

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(ややネタばれあり)

久々の伊坂作品。記録をさかのぼってみると、なんと2012年10月に「砂漠」を読んで以来。本屋でいろいろ探しているうちに平積みになっていたのを手に取って裏表紙のあらすじを目にしたら、どうやら「兜」と呼ばれる殺し屋の話。10年以上前に読んだ伊坂作品で、非常にユニークで巧妙なキャラクターだった泥棒の「黒澤」、殺し屋の「蝉」が登場した作品が大いに面白かった記憶があったので手にしてみた次第。

 

主人公は文具メーカーの営業社員を隠れ蓑に殺し屋稼業を営んできた「兜」。人の命を奪う仕事に疑問を持つようになって引退を考えているのだが、仕事を手配する「医師」からそれまでの投資に見合う稼ぎを果たすまでは引退を認めらないと言われ、新たな仕事を引き受けないと自分や家族に危害が及ぶと悟った悩める殺し屋の身の処し方が描かれる。


なので、本作で「兜」がミッションを果たす場面は序盤に登場するだけだ。大半は思わぬ事件に巻き込まれたり、自分を狙う刺客との対決したりする場面とともに、大変な恐妻家であり、10代の息子がいる家族との関係や、さまざまな人物と関わる日常が描かれながら、これまでの裏稼業で得た知恵や技、過去の仕事のエピソードが挿入される。

 

結局、「兜」は新たな仕事を引き受けず、「医師」が手配した刺客に襲われるがなんとか撃退する。しかし、止めは刺さない。引退を決意した理由は守るのだ。いよいよ家族への危険が差し迫ったと覚悟した「兜」は、「医師」との対決を決意するが、新たに差し向けられた刺客は「兜」の顔見知りであり、その刺客自身も家族を人質に「兜」の始末を請け負っていると知る。

 

最終的に「兜」は顔見知りの刺客との対決ではなく、ビルから飛び降りて死を選択する。自身とその刺客の家族を守るために。そしてこの小説のすごいところは、何年か後に大人になった「兜」の息子(もちろん堅気)が長年封印していた「兜」の遺品の中から診察券を見つけ、父の自殺の真相を知ろうと「医師」を訪ね、新たな展開を見せて行くところだ。さらに「兜」が最後に対決を避けた刺客も絡んでくる。

 

あちこちに少しずつちりばめられた伏線が最後に一気につながり、「兜」が仕組んだ罠で「医師」は命を落とすのだが、そこに至る仕掛けや結末の鮮やかさ手際はさすがとしか言いようがない。「殺し屋」という設定にリアリティーがなく荒唐無稽と言えばそれまでだが、虚構の上に成り立つ小説の楽しみを存分に味わうことができるのは間違いない。(角川文庫)

 

【8日の備忘録】

朝=ご飯1膳、豚ミンチとピーマンのそぼろ、リンゴ、昼=豚バラネギ塩丼、ミニトマトと茹でブロッコリー。飲酒=赤ワイン4杯。体重=59.8キロ。