相武万太郎オフィシャルブログ「六転び七転び八転びROCK。」(音楽、小説、酒) -2ページ目

相武万太郎オフィシャルブログ「六転び七転び八転びROCK。」(音楽、小説、酒)

ベッキーがテレビに出てるとチャンネルを変えてしまう男が、好きな音楽や小説を語ったり書いたりらじばんだりしています。音楽は洋楽ロックメインだったが最近はハロプロ大好きです。特にANGERME。

ジュンペイとエツコから脱兎のごとく駆け出したカッちゃんは、気が付くと幼少のころ3人が育った施設の入り口まできていた。中学までをここで過ごしたからか、落ち着く空間だ。夕焼けがカッちゃんと建物をやわらかく包む。どれくらいそうしていただろう。 その後ろにはヨシエが見守っていた。


「アタクシのピアノ、聴いてほしいんだけれど」


ヨシエの一言でようやく我に返ったカッちゃんだが、ヨシエにほっとした。彼女の眼は、慈悲にあふれていた。何かいわなければならないわけでもなく、ただ、ピアノを聴いていればよかった。彼女の才能は豊かな音に注がれていて、身を委ねていてとても心地よかった。束の間、エツコとジュンペイのことを忘れられたのがとても不思議だった。その日はじめて、カッちゃんは、寮に帰らず外泊した。もちろん、ヨシエの執事経由で許可は得られているのだが、外泊という事実に、ジュンペイもエツコも、心を痛めていた。



(つづく)

「とにかく、だ。毒島が何をたくらんでいるのかを探ることが、ひとつの課題だ。

 それをお前にお願いしたいところだが」

「ばか言わないで。あいつの考えてることがわかってたら、離婚なんてしてないわ」

「まぁそれは俺がなんとかする。お前には、『福音の会』について調べてもらいたい。

 なぜ綿貫は俺に助けを求めたのか。福音の会は何をたくらんでいるのか。

 これも公安マターなんだよ。だから、公安が何かを握っている気がするんだ」







「公安が何かを握っている気がする」


「実は僕もそう思っておりました」


福音の会の教祖である司と綿貫は南青山にある教団本部ビルの教祖室で会合を持っていた。福音の会設立当時は、司の独断で万時物事を決定していたが、ここ最近はごく一部の幹部に語りかける、という形で会合をすることが増えてきていた。その限られた幹部の一人に、綿貫がいた。細菌兵器「ゴモラソドム」開発の唯一の開発研究者であり、その開発にはいま最も予算を注いでいる。綿貫は生来のギーク気質から幼少時より戦術を練ることを好み、一般人からすれば誇大妄想ともいうべき戯言も、宗教法人の規模拡大になぞらえれば実にしっくりくるマーケティングとなって司の好奇心を刺激した。実際に綿貫の提唱する知略によって信者の数は劇的に伸長したことも大きい。司の信頼を得た綿貫は、ますます過激な進言を呈するようになった。


「妙案があります」

綿貫のメガネの奥の光を司は見逃さなかった。無言で続けるよう促すと、綿貫は身を乗り出した。


「先日お願いいたしました人身提供の件ですが」


「ゴモラソドムを繁殖させる手段でもあると言っていたな?」


「はい。ラットで実験してみたのですが、増殖させたゴモラソドムだと感染する染色体が限定的となってしまうようです。ヒトを媒介にしてみたいと思っているのですが」


「公安とどう結びつくのだ」


「実は、うちの信者の身内が、公安に所属しているのです。彼女を人体実験に使うことと、それをうまく絡めることができないかと思いまして」


「その信者は、その材料に使うくらいしか使い道はないのか?」


「ええ。かつては実力があったようですが」


「誰なんだ、それは」


「江藤恵理子です」








(つづく)
※応援コメント、どうぞよろしくお願い申し上げます。
※以下より、登場人物メモです。ネタバレのおそれがあるため、
 以下閲覧注意です。





・的場英二:
S県警刑事局捜査1課所属。32歳。やせ形、筋肉質。伸長189センチ、体重78キロ。切れ目で高身長で一見もてそうな容姿をもつも、近寄りがたい空気を醸し出しており、友人も少ない。独身。ストイックで、禁酒・禁煙をしている。毎日8キロのジョギングが習慣。恋人は何年もいなかったが、事件を通じて恋に落ちる?

・江藤光太郎:
警視庁公安部所属。55歳。中肉中背。172センチ、体重75キロ。薄毛。妻恵理子は行方不明となり、失踪宣告した。娘の恵だけが生きがいだが、親子仲は悪い。粘着質のように仕事を進めることからハエ取り紙、公安部の略称「ハム」とあわせて「ハム取り紙の江藤」の異名をもつ。妻失踪後、仕事の情熱を失っていたが、今回の「福音の会」事件で妻が信者であったことを知り、情熱を燃やす。しかし、事件に配偶者が関わっている可能性があることから担当からはずされる(忌避)。それでも、独自に捜査を進めていたところ、的場と出会う。

・江藤恵
光太郎の娘。25歳。伸長162センチ、体重51キロ。父とは微妙な関係だが、父を嫌いなわけではない。目鼻立ちがくっきりしたかわいらしいタイプ。夜遊び・外泊を繰り返していたが、的場と知り合ってからは、真面目になる。母が失踪したことで、愛情に飢えている。自分のせいで失踪したのかと思いこんでいる。

・毒島寛
警視庁公安部所属。197センチ、体重87キロ。巨大な体躯。江藤とコンビを組んでいたが、江藤が担当を外されたことで、別の人間(中本重徳)と組む。しかし、江藤に同情する彼は、江藤から度々頼まれごとも、快く引き受けている。温厚で気さくな性格。

・杉本冴
S県警刑事局捜査1課所属。30歳、バツイチ。172センチ、54キロ。的場の仕事上の相棒。つっけんどんな対応しかしないのは、古傷が癒えていないからである。的場のことを気になりつつも、必死に一線をひく。女性と子供には優しい。



・綿貫博一
的場の同級生。眼鏡をかけており、ポッチャリ型。168センチ72キロ。おっとりした性格と信念を貫く強い面を併せ持つ。福音の会にハニートラップを仕掛けられた末、研究者としてからめとられることに。ゴモラソドムの開発者。研究者としてのエゴが人間としての良識を上回り、ゴモラソドムを開発してしまうも、良心に苦しみゴモラソドム消滅を図ろうとして組織に殺される。

どうも、久しぶりでございます。僕です。


自分の言葉でブログを書くのが久しぶりすぎて、緊張しております・・・笑



さて、数年前に書きかけ途中だったこの【勝手にジュンペイ!!】ですが、

過去記事を再アップして第55話まできました。


ここで過去貯金はなくなってしまったので、ここからは毎日配信ではなく、

週一配信を目指して頑張ります。


もうひとつの小説【蠢く聖水】も週一配信なので、結構大変なのですが・・・。


まぁ、無理なく書いていくつもりですので、温かい目で見守ってくださいませ。



「さあて、はじめるか」



ジュンペイは近所の公園に来ていた。夜ということもあり誰もいなかったが、住宅街の真ん中にあるため、あまり騒ぐわけにはいかない。

ジュンペイの前にはカッちゃんから譲り受けたベースがある。B.C. RICH 社のワーロックをカッちゃんが必死にバイトして買ったのは、敬愛するベーシストがMOTLEY CRUE のニッキー・シックスだからだと聞かされていた。


「ニッキーはさぁ、テクニックは大したことはない。でも、コンポーザーとしても優秀だし、何よりベースラインのセンスがすげーんだよ」


カッちゃんの影響でLAメタルを始めとする洋楽を好んで聴くようになったジュンペイだったが、ベースの音がどんなものなのかはっきり聴きとれた試しがなかった。そもそも地味なパートだという認識しかなく、意識して聴いたこともなかった。カッちゃんが同部屋だったが、部屋で練習するときはアンプを通していなかったから、ジュンペイはベースの音をしらなかった。


「ベースは弦が四本しかないんだったよな?ギターより簡単だろ」


カッちゃんがこの場にいたら、予想通りの模範解答に爆笑していただろう。ジュンペイは、この期に及んでもなお、ヴォーカルしか頭になかったのだ。ベースはあってもなくても同じだと本気で思っていた。


「確かカッちゃんは指で弾いていたな……」


適当にフレットを押さえてみる。隣に聴こえないよう、そっと人差し指で弦を弾いてみた。






ビン…





あれ?こんなに硬いのか?音も全然出ないぜ?



まさか……カッちゃんは壊したベースを渡したのか?



フレットをしっかりと押さえることや押さえる場所、フィンガーピッキングのフォーム。なに一つ知らないジュンペイはカッちゃんを疑うほどのレベルからのスタートだった。








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完全秘匿の状態で指揮命令が出されているとすれば、トップダウンもしくは公安マターいずれかの可能性が考えられる。公安―――。それは毒島が所属する部署に他ならなかった。俺は、毒島に泳がされているのだろうか。直接聞き出すような愚は犯さないが、解決への糸口がほしかった。だとすれば、捜査するより方法がない。自分では限界があった。できるだけのことは自分でやって、どうしても無理な部分だけ杉本に頼ることにしよう。腹を括ると、事情を杉本に説明した。

「綿貫は、殺された。それは、『ゴモラソドム』計画を阻止しようとしたからだと思う」

「『ゴムラソドム』?」

「『ゴムラソドム』というのは綿貫が作った最凶の細菌兵器のことだ。

 といっても俺も取調室で聞いただけではにわかに信じられなかったがな」

煙草を吸いたくなったが我慢した。

「奴によれば、中国と韓国が騒いでいる件もゴモラソドムが関係しているらしい」

「竹島で発生した紛争事案ね。私も新聞での情報くらいしか知らないけど、

 下手すると外交問題どころか戦争にまで発展しかねないんじゃない?」

「公安の外事課マターだ、知らなくて当然だろう。そこで気づくことはないか」

冴ははっとした表情になった。「もしかして・・・」

「どうなのかわからん。しかし、わざわざS県警くんだりまでエリートの『元旦那』が理由もなしに

 来ているなんて、おかしいとは思わないか」

「確かに彼、公安部だけど・・・」

「この案件絡みじゃなかったとしたら、元鞘狙いかもな」

「やめて!彼とは本当、もう何年も顔を合わせていなかったのよ」

「とにかく、だ。毒島が何をたくらんでいるのかを探ることが、ひとつの課題だ。

 それをお前にお願いしたいところだが」

「ばか言わないで。あいつの考えてることがわかってたら、離婚なんてしてないわ」

「まぁそれは俺がなんとかする。お前には、『福音の会』について調べてもらいたい。

 なぜ綿貫は俺に助けを求めたのか。福音の会は何をたくらんでいるのか。

 これも公安マターなんだよ。だから、公安が何かを握っている気がするんだ」



(つづく)
※応援コメント、どうぞよろしくお願い申し上げます。
※以下より、登場人物メモです。ネタバレのおそれがあるため、
 以下閲覧注意です。





・的場英二:
S県警刑事局捜査1課所属。32歳。やせ形、筋肉質。伸長189センチ、体重78キロ。切れ目で高身長で一見もてそうな容姿をもつも、近寄りがたい空気を醸し出しており、友人も少ない。独身。ストイックで、禁酒・禁煙をしている。毎日8キロのジョギングが習慣。恋人は何年もいなかったが、事件を通じて恋に落ちる?

・江藤光太郎:
警視庁公安部所属。55歳。中肉中背。172センチ、体重75キロ。薄毛。妻恵理子は行方不明となり、失踪宣告した。娘の恵だけが生きがいだが、親子仲は悪い。粘着質のように仕事を進めることからハエ取り紙、公安部の略称「ハム」とあわせて「ハム取り紙の江藤」の異名をもつ。妻失踪後、仕事の情熱を失っていたが、今回の「福音の会」事件で妻が信者であったことを知り、情熱を燃やす。しかし、事件に配偶者が関わっている可能性があることから担当からはずされる(忌避)。それでも、独自に捜査を進めていたところ、的場と出会う。

・江藤恵
光太郎の娘。25歳。伸長162センチ、体重51キロ。父とは微妙な関係だが、父を嫌いなわけではない。目鼻立ちがくっきりしたかわいらしいタイプ。夜遊び・外泊を繰り返していたが、的場と知り合ってからは、真面目になる。母が失踪したことで、愛情に飢えている。自分のせいで失踪したのかと思いこんでいる。

・毒島寛
警視庁公安部所属。197センチ、体重87キロ。巨大な体躯。江藤とコンビを組んでいたが、江藤が担当を外されたことで、別の人間(中本重徳)と組む。しかし、江藤に同情する彼は、江藤から度々頼まれごとも、快く引き受けている。温厚で気さくな性格。

・杉本冴
S県警刑事局捜査1課所属。30歳、バツイチ。172センチ、54キロ。的場の仕事上の相棒。つっけんどんな対応しかしないのは、古傷が癒えていないからである。的場のことを気になりつつも、必死に一線をひく。女性と子供には優しい。



・綿貫博一
的場の同級生。眼鏡をかけており、ポッチャリ型。168センチ72キロ。おっとりした性格と信念を貫く強い面を併せ持つ。福音の会にハニートラップを仕掛けられた末、研究者としてからめとられることに。ゴモラソドムの開発者。研究者としてのエゴが人間としての良識を上回り、ゴモラソドムを開発してしまうも、良心に苦しみゴモラソドム消滅を図ろうとして組織に殺される。

「今カッちゃんがいたんじゃない?」


背中に目でもつけているのか。ジュンペイは驚き、嫉妬した。エツコをこれほど遠く感じたことはなかった。こみ上げる衝動。思わずエツコの肩を両手で押さえていた。


「……な、何よ」


「俺、誰にもお前を渡したくない。でもカッちゃんになら仕方ないとも思う。不戦勝は嫌いなんだ。見てろよ!!絶対に振り向かせてやる」








エツコは、ジュンペイに肩を押さえられたとき、体に電流が走った。理由ははっきりしない。ジュンペイに押さえられた瞬間に廊下の奥からカッちゃんが立ちつくしていたからかもしれないし、ジュンペイに触れられたからかもしれない。


それにしても、さっきジュンペイの目が窓側の一点を捉えていたように見えたのは間違いではなかったのだ。カッちゃんはきっと話し合いをしているエツコたちを認め、中庭から駆けつけたのだろう。だが、あのカッちゃんの様子をみれば、完全に勘違いをしたに違いない。ジュンペイの背中がエツコを隠し、キスしているように見えたのだ。脱兎のごとく走っていくカッちゃんを目で追うしかエツコには出来なかった。



一気にあらゆることが起きたせいで、カッちゃんに見られたことをジュンペイに言うべきかどうかも分からない。


カッちゃんが誤解しているのは明らかだった。ジュンペイに伝えたら、ジュンペイはカッちゃんの誤解を解くだろうか。



エツコには出来なかった。ジュンペイは恐らくカッちゃんに伝えるだろう。それが嫌なのではない。万一そうしなかったら、自分がジュンペイを軽蔑するかも知れない。それが嫌だったのだ。


カッちゃんには自分から誤解を解こう。でもどんな顔をして会えば……。考えると憂うつだったが、10年以上続いた微妙な三角関係にピリオドをうたねばならないことを考えるよりはましだった。





ジュンペイがいなくなり、エツコは自室に戻った。カーテンの向こう側には晴れ間が広がっていた。眩しさに苛立ち、カーテンをしめた。







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「ベースは貸してくれよな」

ジュンペイは決意を伝えたつもりだったのだが、カッちゃんはそう受け取らなかった。

「俺のベース、受けとれないのか?」


カッちゃんはジュンペイにベースを譲ると言っているのだ。片手間でやるんじゃねーよという意志がはっきり伝わった。


「ちゃんと金は払うよ」



そういうと、ソフトケースに入ったB.C. RICH をもぎ取り、ドアを閉めた。開けろと言われるかと思ったが、カッちゃんの遠ざかる足音だけが聞こえただけだった。


以前遊び心で喫茶エスポアールのマスターに触らせてもらったギターより遥かに重かった。物理的な話だけじゃない。真剣に取り組むという意識がそう感じさせている。怖かった。なのに武者震いしている。



俺、エツコを好きだと思う。



なら情熱をベースに傾けて、その思いを伝えるべきだと思った。考えたら即行動がジュンペイの信条である。まずはエツコに宣言しにいこうと考えた。ちょうどカッちゃんは部屋をでたきりだし、疑われる余地が少ない。そこまで考えての告白だったのだ。










だがあのときエツコの部屋のカーテンは開かれたままだった。中庭にいたカッちゃんは偶然にもエツコとジュンペイが何か話している様子を見てしまったのだ。


カッちゃんと目が合ったが、カッちゃんに背を向けているエツコに気づかれないよう目をそらした。カッちゃんは呆然とみつめていたが、ジュンペイが目をそらした理由を悟ったのだろう、中庭から慌てて離れていった。



ジュンペイが内心一息をついていると、エツコが話しかけてきた。「ね。今カッちゃんが来てたんじゃない?」







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困ったことになったとカッちゃんはさっきから同じことを繰り返し呟いていた。ジュンペイと同部屋だけに、戻ろうにもどんな顔をして戻ればよいか考えあぐねていた。


男子寮と女子寮とをつなぐ渡り廊下は中庭を横断しており、左右に伸びる小路に寄り道すれば季節の折々を感じることができる。カッちゃんはまとまらない考えを整理するため中庭をぶらぶらしていたのだった。そして、何度目になるかわからないジュンペイとの会話を反芻していた。







「お前は、エツコをどう思ってる」

「どうって……」

「『家族』だとか甘いこというなよ。ハッキリさせてーんだよ」

「エツコの気持ちは無視かよ」

「無視とかどうとかいう前に、どう考えてるかってことだ」

「ジュンちゃんはどうなんだよ」

「俺、あいつのこと好きだ」

「………」

「さぁ俺の気持ちは分かっただろ?カッちゃんはどうなんだよ」

ジュンペイの目はなぜか落ち着いていた。どうしてこいつはこんな話題を突然ふってくるんだ。


「まてまて。俺だってエツコのことは好きだ。だけど、今どうにかしようなんて思っちゃいない。俺、今の関係が気に入ってんだ」


「今の関係って…そんなもん何もねーよ。ハッキリさせないままずっとズルズルいくのか?お前、バカじゃないと思うから気づいてるだろうけど、ヨシエの気持ちもちょっとは考えてやれよ」


「……ずっとこのままが良かったんだけどな……」


分かっていた。いつかは精算しなければいけないのだ。ただ、もう少し。もう少しだけ今のままでいたかった。けれどジュンペイはパンドラの箱を開けてしまった。最早、振り返ることは許されない。







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「お前を賭けて勝負することになったんだよ」


長すぎる一瞬がドアを隔てた空間に流れた。エツコは戸惑い、ジュンペイは予想通りの反応に苦悩した。



「意味が分からないわ……」


「言葉通りさ。音楽を通してカッちゃんと勝負するってことだ……」


「そういうことじゃないっ!!」


激しい感情が飛ぶ。ジュンペイは思わず肩を強ばらせた。エツコにみられなくて良かった。


「私は二人のものじゃないわ!!それに……そんなことをなんでジュンペイだけが私に言ってくるのよ?カッちゃんはっ!!」


エツコの激昂をジュンペイは正面から受け止めることができなかった。勝負前からカッちゃんに軍配が上がっているのだと肩を落とした。
「……知らねーよ」


知っていた。カッちゃんより早く行動しただけに過ぎない。決まった話は即行動がジュンペイの信条。対するカッちゃんは慎重な性格だった。先手必勝とまで考えていなかったが、カッちゃんと二人でエツコに話すという光景は想像することができなかったのだ。


そもそも、カッちゃんと二人でエツコについて話し合うということ自体が初めてのことだった。エツコが誰のものかというテーマは、三人にとってアンタッチャブルだったのだ。







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エツコはその日、ジュンペイから呼び出しを受けていた。前夜、突然部屋にノックがあった。


「エツコ、いるか?」

エツコ、ジュンペイ、カッちゃんは今でも同じ施設内で暮らしている。カッちゃんとジュンペイに至っては同部屋である。


「なあに」

何故かこのときドア越しに話したほうがいいような気がしたエツコはドアを閉めたままジュンペイに応じた。ジュンペイもそのまま会話してくれたことにほっとしていたが、言葉が硬いのはジュンペイも同じようだった。


「あのさ。俺、ベースやることになった」


「えっ?あんな素敵な声なのに…「あっ、ジュンペイの声質が純粋に素敵だって言いたかっただけで、ジュンペイ自身を誉めたつもりはないっていうか」

「ちぇっ、分かってるっつーの。ハッキリいわなくてもよ」


「いやっ、だからといってけなしてる訳でもないからね」


「何を言ってるんだよ……まぁいいや。俺が話しに来たんだ。用件忘れちまうよ」

ジュンペイはそういうと、ひとつ咳払いした。


「ヴォーカル兼ベースやることになったんだよ。カッちゃんはギターに戻るんだ」

「ふうん。リードギターとリズムギターという編成にするのかしら」

「お前、詳しくなったな」

「伊達にマネージャーやってませんって」

そう言ったが、知識の大半は喫茶エスポアールでカッちゃんから聞いたものだということにチクリと胸が痛んだ。あれ?なんで苦しいのだろう…


「まぁ、そういうことだ。カッちゃんはリズムギターは、運指が速いシゲキに頼むつもり」

「……それを言いに来たの?」

「いや、これは前置きだ。俺とカッちゃんは、お前を賭けて勝負することになったんだよ」







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