完全秘匿の状態で指揮命令が出されているとすれば、トップダウンもしくは公安マターいずれかの可能性が考えられる。公安―――。それは毒島が所属する部署に他ならなかった。俺は、毒島に泳がされているのだろうか。直接聞き出すような愚は犯さないが、解決への糸口がほしかった。だとすれば、捜査するより方法がない。自分では限界があった。できるだけのことは自分でやって、どうしても無理な部分だけ杉本に頼ることにしよう。腹を括ると、事情を杉本に説明した。
「綿貫は、殺された。それは、『ゴモラソドム』計画を阻止しようとしたからだと思う」
「『ゴムラソドム』?」
「『ゴムラソドム』というのは綿貫が作った最凶の細菌兵器のことだ。
といっても俺も取調室で聞いただけではにわかに信じられなかったがな」
煙草を吸いたくなったが我慢した。
「奴によれば、中国と韓国が騒いでいる件もゴモラソドムが関係しているらしい」
「竹島で発生した紛争事案ね。私も新聞での情報くらいしか知らないけど、
下手すると外交問題どころか戦争にまで発展しかねないんじゃない?」
「公安の外事課マターだ、知らなくて当然だろう。そこで気づくことはないか」
冴ははっとした表情になった。「もしかして・・・」
「どうなのかわからん。しかし、わざわざS県警くんだりまでエリートの『元旦那』が理由もなしに
来ているなんて、おかしいとは思わないか」
「確かに彼、公安部だけど・・・」
「この案件絡みじゃなかったとしたら、元鞘狙いかもな」
「やめて!彼とは本当、もう何年も顔を合わせていなかったのよ」
「とにかく、だ。毒島が何をたくらんでいるのかを探ることが、ひとつの課題だ。
それをお前にお願いしたいところだが」
「ばか言わないで。あいつの考えてることがわかってたら、離婚なんてしてないわ」
「まぁそれは俺がなんとかする。お前には、『福音の会』について調べてもらいたい。
なぜ綿貫は俺に助けを求めたのか。福音の会は何をたくらんでいるのか。
これも公安マターなんだよ。だから、公安が何かを握っている気がするんだ」
(つづく)
※応援コメント、どうぞよろしくお願い申し上げます。
※以下より、登場人物メモです。ネタバレのおそれがあるため、
以下閲覧注意です。
・的場英二:
S県警刑事局捜査1課所属。32歳。やせ形、筋肉質。伸長189センチ、体重78キロ。切れ目で高身長で一見もてそうな容姿をもつも、近寄りがたい空気を醸し出しており、友人も少ない。独身。ストイックで、禁酒・禁煙をしている。毎日8キロのジョギングが習慣。恋人は何年もいなかったが、事件を通じて恋に落ちる?
・江藤光太郎:
警視庁公安部所属。55歳。中肉中背。172センチ、体重75キロ。薄毛。妻恵理子は行方不明となり、失踪宣告した。娘の恵だけが生きがいだが、親子仲は悪い。粘着質のように仕事を進めることからハエ取り紙、公安部の略称「ハム」とあわせて「ハム取り紙の江藤」の異名をもつ。妻失踪後、仕事の情熱を失っていたが、今回の「福音の会」事件で妻が信者であったことを知り、情熱を燃やす。しかし、事件に配偶者が関わっている可能性があることから担当からはずされる(忌避)。それでも、独自に捜査を進めていたところ、的場と出会う。
・江藤恵
光太郎の娘。25歳。伸長162センチ、体重51キロ。父とは微妙な関係だが、父を嫌いなわけではない。目鼻立ちがくっきりしたかわいらしいタイプ。夜遊び・外泊を繰り返していたが、的場と知り合ってからは、真面目になる。母が失踪したことで、愛情に飢えている。自分のせいで失踪したのかと思いこんでいる。
・毒島寛
警視庁公安部所属。197センチ、体重87キロ。巨大な体躯。江藤とコンビを組んでいたが、江藤が担当を外されたことで、別の人間(中本重徳)と組む。しかし、江藤に同情する彼は、江藤から度々頼まれごとも、快く引き受けている。温厚で気さくな性格。
・杉本冴
S県警刑事局捜査1課所属。30歳、バツイチ。172センチ、54キロ。的場の仕事上の相棒。つっけんどんな対応しかしないのは、古傷が癒えていないからである。的場のことを気になりつつも、必死に一線をひく。女性と子供には優しい。
・綿貫博一
的場の同級生。眼鏡をかけており、ポッチャリ型。168センチ72キロ。おっとりした性格と信念を貫く強い面を併せ持つ。福音の会にハニートラップを仕掛けられた末、研究者としてからめとられることに。ゴモラソドムの開発者。研究者としてのエゴが人間としての良識を上回り、ゴモラソドムを開発してしまうも、良心に苦しみゴモラソドム消滅を図ろうとして組織に殺される。