ただいまも言わず、玄関の扉をあける。
マンションの外廊下の光が、三郎の影を入室させた。
リビングに到着すると、ようやく電灯スイッチを押した。
三郎は、分かってはいたが、誰もいないことに安堵した。
妻は実家に帰っているし、娘は高校卒業後、独立していった。
それでも、我が家に居心地の悪さを覚える。
靴でも買って、妻を迎えにいくなど、
到底できそうにもない。
ボタンの掛け違えを直す作業は途方もないことに感じられた。
コンビニ弁当をほおばりながら、今日の出来事を反芻した。
自殺を考えていたのに、若い女性とのデートにときめくなんて、
つくづくいい加減な人間だと思う。
瞳は食事の誘いを快諾してくれた。
今、空腹を満たすため弁当を食べているのは、
来週の瞳との食事のためである。
別居している妻の印が押された離婚届が手元にある今、
罪悪感はなかった。
だが一喜一憂しなければ生きていけない自分のレールにあらためて嫌気を覚えた。
それでも、私は生きている。
人生については、来週が終わってから考えよう。
三郎はそう決めたが、その夜は寝付けなかった。
(つづく)