その店は、オープン以来、連日のにぎわいをみせていた。
[Soldier Of Fortune]
和訳すると
風雲児
なる意味をもつ餃子店は、
確かにオーナーシェフからして風雲児だ。
紫関亜弓は弱冠20歳の色白美人。
華奢な手足と対照的に、くっきりと挑戦的な瞳。
アヒルのような口元が全体的なとげとげしさを相殺しているが、
幼い頃両親と生き別れ、中学卒業以来、
己の腕一本で店の開店資金を貯めてきた苦労人には、
凛とした存在感がただよっている。
愛想のよさ器量のよさが話題にのぼることはもちろんのことだが、
何よりも人々の心を掴んで離さないのは、
その餃子にある。
表面がぱりっと、しかし
噛むともちっとした皮は、
彼女の芸術を味わうエッセンスのひとつに過ぎない。
一枚の皮を隔てた向こうには、口の中であふれんばかりの肉汁が
舌をうならせたくてうずうずしている。
さらに、
シャキシャキとしたニラが抜群のアクセントとなり、
にんにくのパンチ力をより印象的にする。
主役級のキャスティングが主張しすぎない中で上品な迫力をみせつけるのが、合い挽き肉だ。
言いようのないコリコリ感が、食欲を増進し、箸のスピードを速めていく。
この餃子は、紫関亜弓そのものであり、唯一無二。
店を訪れた誰もがこの餃子の虜になり、彼女に夢中になった。
かくいう私も、熱狂的信者の一人だ。
しかし
私の肩書きである料理研究家としてのプライドが、
史上類を見ない猟奇的事件を明るみにさせ、
世間を震撼させることになるとは、
この時の私は知る由もなかった。