紫関亜弓の作る餃子を、店では
Lover
と呼んでいる。
餃子とは恋人のような大切な存在だということらしい。
この恋人を何とか解明したくて
私は足繁く店に通って、研究した。
1ヶ月も食べつづけた結果、彼女の作るLoverのポイントを3つにしぼることができた。
ひとつは、肉汁が量も味もハンパないので、
特別な肉汁を別に詰めているのではないかということ。
2つ目は、肉。
軟骨のような食感が病的なまでにクセになる。
3つ目は、タレだ。
酢をかけないで酸味のある不思議な味わいは、客の全員が皿を綺麗にしてしまう。
何度となく取材しても、企業秘密といって肝心な部分を秘密にされてしまった以上は、
推理を突きつけて参りましたと言わせるしかない。
ついに、
自分の舌ではこれ以上の推理は不可能だと思い知らされたのは
半年通ってもなおわからないことに愕然としたからだ。
何度食べても分からない。飽きるどころか、ますます食べたくなる。
絶対食感を持っていると自負していたプライドの崩壊を何とかまぬがれようと、
彼女に取材攻勢をかける。
取材中、Loverを頬張りながら、
私は紫関亜弓に畏敬の念を超えた感情が自分を苦しめ始めたことを知った。
胸が苦しい。
自分より一回り干支が違う女性に恋愛感情を抱くとは、
私もヤキが回ってしまった。
もはやLoverに執着しているのか、亜弓に執着しているのか、私にとってそれは禅問答に等しかった。
苦しみ、悶えた。
Loverをむさぼることで亜弓への想いをかき消そうとまで落ち込み、Loverの食べる量は増していった。
そして、栄養バランスの偏りからか店内でついに倒れてしまった。