(『人間革命』第11巻より編集)
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〈大阪〉 18
伸一が逮捕されて以来、戸田は、関西本部に頻繁に電話を入れて、様子を尋ねていたが、この日の電話は、分刻みといってよいほどの回数であった。
何度目かの電話のあと、応対した幹部に戸田は言った。
「君たちを、厳しく叱りつけてすまんな。しかし、牢獄というものは、入った者でなければわからんのだ。
今、伸一は、その中で必死になって戦っているんだよ」
伸一の苦しみは、そのまま戸田の苦しみであった。戸田は、伸一が逮捕されてからというもの、満足に眠ることはなかった。
床に就いても、まどろんだかと思うと、伸一の夢を見ては目を覚ました。
これが、戸田自身に加えられた苦痛であれば、彼は、泰然自若として耐えたであろう。
伸一は戸田の命であり、広宣流布の一切を託さなければならない分身であった。
戸田は、何かあれば、弟子のために自らが犠牲になることを、硬く心に誓っていたのである。
山本伸一は、いかなる仕打ちにも、決して動じなかった。検事は業を煮やしていた。
「山本! いい加減に認めたらどうだね。買収も戸別訪問も、逮捕された者たちは、皆、君の指示でやったと言っているんだよ」
「それならば、その人たちに会わせてください。そうすれば、それが嘘であることが明白になると、私は何度も言っているではありませんか。
しかし、それをしようはしない。なぜ、真実を見極めようとしないんですか。あなたたちは、私に嘘の供述をせよと言っていることになります。
していないことを、認めるわけにはいきません」