(『人間革命』第11巻より編集)
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〈大阪〉 19
憤然として語る伸一の言葉に、一瞬、検事は、たじろいだかに見えた。そして、もの静かな口調で、諭すように語り始めた。
「嘘を言えなどと言っているわけじゃない。認めるべきものは、早く認めた方がいいと言っているだけだよ。
君が、そういう姿勢を崩さなければ、どういう事態になるか考えてみたまえ。
私たちとしては、君が勤めている大東商工と学会本部を手入れし、そして、戸田を引っ張らなくてはならないことになる」
検事は、脅迫に近い言辞を弄し始めた。
「なんですって!大東商工とこの事件と、どういう関係があるんですか。それに、学会本部も戸田先生も関係ないではありませんか」
「いや、君は戸田の指示で、大阪の選挙の最高責任者になったんだからな。それに、戸田は学会の責任者だ。
この事件は、創価学会員が組織立って行った犯行だ。会長である戸田を調べるのは、当然のことじゃないか。
しかも、買収を行うに際して、戸田の了解を得ている供述もあるんだからね」
「嘘です。そんなことは断じてない!」
「それは、直接、戸田に聞いてみないことにはね・・・」
こう言うと、検事は机の上の電話に手を伸ばし、ダイヤルを回した。
「ああ、私だよ。すぐに大東商工の手入れを準備してくれ。それから、大東商工の社長に、一切の帳簿を提出するように言うんだ。大至急だ」
検事は、これだけ言うと、電話を切った。
「山本!私は、やると言ったら必ずやる。なめていると、とんでもないことになるぞ!」
この検事の言葉は、伸一の胸に、深く突き刺さった。この時から、彼の獄中での煩悶が始まったのである。