(『人間革命』第11巻より編集)
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〈大阪〉 2
戸田は、ここ数日の情勢から、伸一の逮捕を予測していたのである。情けなくもあり、腹立たしくもあった。
既に、大阪府警に出頭した、理事長の小西武雄が、前日の七月二日に逮捕されていたのだ。
山本伸一が、「先生、ただ今、戻りました」と言って、狭い控室に入っていくと、戸田は、待ちかねたように声をかけた。
「おお、伸一・・・」
戸田は、伸一を見つめ、あとは言葉にならなかった。
伸一は、瞬間、戸田の憔悴した姿を見て、心を突かれ、言葉もなかった。
戸田は、側にいた伸一を招いた。伸一は、手短に夕張の状況を報告した。
「ご苦労、ご苦労。昨夜、電話で聞いたよ」
戸田は、話の腰を折るように、伸一の顔を、じっと見つめるのである。慈しみつつも、また悲しい眼差しであった。
伸一はその視線を避けるように、目を落とした。
その瞬間、戸田は、咳払いをしてから、意を決したように強い語調で言った。
「伸一、征(い)って来なさい」
戸田は、伸一の目を見すえながら話を続けた。
「われわれが、やろうとしている、日蓮大聖人の仏法を広宣流布する戦いというものは、現実社会の格闘なのだ。
現実の社会に根を張れば張るほど、難は競い起こってくる。それ自体が、仏法の真実の証明であり、避けることなど断じてできない。
どんな難が競い起ころうが、われわれは、戦う以外にないのだ。また、大きな苦難が待ち構えているが、伸一、征って来なさい!」
「はい、征ってまいります」