『人間革命』第11巻より編集)
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〈大阪〉 3
伸一は、こう答えたものの、ここ五日ばかりの間に、めっきりやつれた戸田を目の前に見るのが辛かった。
わが師の心労を思うと、胸が痛んだ。戸田の健康が気がかりでならなかった。
「先生、お体の具合は?」
「うん」
戸田は、それには答えなかった。そして、伸一をまじまじと見つめ、その肩に手をかけた。
「伸一、心配なのは君の体だ・・・。絶対に死ぬな、死んではならんぞ」
戸田の腕に力がこもった。彼は、伸一の体を強く抱きしめるように引き寄せ、沈痛な声で語りかけた。
「伸一、もしも、もしも、お前が死ぬようなことになったら、私も、すぐに駆けつけて、お前のうえにうつぶして一緒に死ぬからな」
電撃が伸一の五体を貫いた。彼は、答える言葉を失った。万感に胸はふさがり、感動は涙となって、目からほとばしり出そうになったが、彼は、じっとこらえた。
そして、決意の眼差しを戸田に向けながら、わが心に言い聞かせた。
”断じて負けるものか。どんな大難が降りかかろうと、決然と闘い抜いて見せる。
戸田先生の弟子らしく、私は、力の限り戦う。師のためにも、同志のためにも。それは広宣流布の、どうしても越えなければならない道程なのだ”
やがて、青年部の幹部の一人が、大阪行きの飛行機の出発時間が迫っていることを告げに来た。
すると戸田は、一冊の本を手にして、伸一に渡した。