一難去って、また一難(夕張から、大阪へ) | くにゆきのブログ

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今、自分が感動したこと、また知っていただきたいことを、主に記していこうと思います。

     (『人間革命』第11巻より編集)

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        〈夕張〉 9 完

 

 山本伸一は、一人、別室で横になっていた。彼には、大阪事件が待ち構えていたのである。

 

 ・・・。

 

 明日は出頭する予定だが、同じく逮捕は免れまい。一難去って、また一難である。

 

 伸一は、やがて起き上がると、身支度を始めた。そして、人びとに気づかれないように、用意してもらった車に乗って夕張を去った

 

 夜の街道を、自動車は砂煙をあげて疾走した。

 

 見渡すと、広漠とした原野に、遠く山脈が黒々と連なっている。

 

 ”いっそのこと、あの山脈のなかで、静かに暮らすことができたら・・・”

 

 伸一は、疲れていた。連想は、大雪山の山中の生活まで及んだ。彼は、一瞬、われを忘れたが、その瞬間、憔悴した戸田城聖の顔が浮かび、一切の迷想は消えた。

 

 伸一は、深夜、札幌の旅館に着き、そこで一泊した。疲労は極点に達していた。

 

 夜は、我慢がならぬほど長かった。大阪の腹立たしい事件が、どこまでも頭にこびりついて離れない。

 

 やっと夜が明けた。疲労だけが残っている。青ざめた顔は、別人のように活気を失って冴えなかった。

 

 ただ、夏の札幌の涼しい朝風だけが救いであった。

 

 青年部の澤田良一たち、二、三人がやって来た。飛行機の出発まで、時間はまだある。

 

 彼は青年たちと、近くの公園に入り、池の周りをゆっくり歩いた。

 

 「澤田君」

 

 伸一は、澤田に呼びかけながら、しばらく口をつぐんで、池の水面に視線を落としていた。

 

 「いよいよ、大阪に行かなくてはならなくなったが、厄介のことになったものだ」

 

 「逮捕されるようなことはないんでしょうね」

 

 「それは、分からない。何がどうなっても、君たちは、戸田先生を守り抜いてくれ。先生のお体が、今、いちばん心配なんだ

 

 時間が来た。伸一は車で千歳空港に向かい、羽田行きの日航機に搭乗した。