(『人間革命』第11巻より編集)
33
〈波瀾〉 7
伸一は、ほっと安堵の息をついたが、前日、慌てた側近の幹部たちは、もはや何ごともなかったように、戸田の回復を、当然のこととして、気にもとめなかった。
また、戸田自身も、そのように振る舞ったのである。
五月三日の総会に現れた、さっそうとした戸田城聖の姿からは、昏倒した状態を想像することは、全く困難であった。
最後に戸田城聖は、「時に適うということは大事なことであります」と語りかけ、折伏の根本精神を明らかにしていった。
「時に適う信心というのは、折伏以外にない。折伏こそ、時に適う信心なんです。その折伏の根本精神が慈悲です。
相手を助けていこうという心です。その心を一念に充満させて折伏するならば、相手が聞かないわけがない。
どんなに聞かない子どもでも、母親の愛情にはかなわない。それは、母親は絶対、子どもをかわいがるからです。
慈悲の心には、かなわないんです。
この、時に適う宗教をして、その信仰に適う折伏をしながら、デタラメなことを言う者がいる。
なかには腹を立てて、『お前みたいなやつは、七日で死んでしまう』なんて、とんでもないことを言う者がいたという。
そういう折伏は、絶対にいけません。慈悲に満ちて、相手を”どうしても救っていこう”という心になって折伏してこそ、末法の信仰に適うんです。
その時に、自然に折伏した人に功徳が現れてくる。
しかし、『俺は十五人を折伏したが、まだ、ちっとも功徳が出てこない』なんて、そんな欲張った根性ではいかん。
相手を救う真心に満ちた折伏をしておれば、願わずとも自然に功徳が現れる。
あまり長い講演をしても、みんな、もうさんざん聞き飽きているだろうから、これくらいにしておくが、今日から、その気持ちで折伏するんですよ。
慈悲の行動であって、情の行動である。それを心によく思って、しっかり頼みます」