(『人間革命』第11巻より編集)
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〈波瀾〉 4
三月に入ると、大阪府で参議院議員の補欠選挙が、近く施行されることになり、それをめぐって、いかに対処するかという問題が起きた。
・・・ 。
二十四日の午前、いよいよ開票が始まってみると、自民、社会雄候補と、尾山辰造(学会支援)の三つ巴となったが、
しばらくすると尾山辰造は第三位から動かず、自民と社会が一位を競り合って、最後まで勝敗の行方はわからなかった。
開票の途中経過は、時折、会長室の戸田のもとに報告されていた。
一時間、二時間とたち、三つ巴の段階から尾山が落ちて、敗色は決定的となり、誰も、会長室に報告に行こうとはしなかった。
重苦しい空気が流れた。誰かが報告に行かなければならない。しかし、誰も立つことはできなかった。
そこへ、戸田が姿を現した。
「どうだ?」
誰も、とっさに答える人はなく、戸田の顔を見るのも辛かった。
戸田は、伸一の方を見て立っていた。伸一は、きちっと端座すると口を開いた。
「落選です。先生、申し訳ありません」
伸一は、両手をついて、肩を震わせていた。かすかに嗚咽が漏れた。
戸田は、伸一の側に走り寄った。
「泣くな、伸一、泣いてはいけない」
戸田は、伸一の肩に手をかけ、抱きかかえるようにして立ち、伸一の肩に手を回したまま、会長室に消えた。
伸一は泣き、戸田も「泣くな」言いながら泣き、二人は相擁して、無念の涙をのんだのである。
しばらくして、伸一は、あらたまって戸田に願い出た。
「先生、面目もありません。この際、私の一切の役職を、解任してください」