(『人間革命』第7巻より編集)
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〈転機〉 14
「あなたのように、疑い深い人はありません。私に楯突くことは結構です。しかし、御本尊様には、もっと素直になっていただきたい!」
いつもと違って、きつい叱咤を受けた増田は、初めて驚いた。全身から力という力が、見る見る抜けていくような衝撃に襲われた。顔面も蒼白になった。
しかし、伸一は厳しくも優しかった。
「心配しなくていい。頑張りなさい。私がついているから大丈夫です」
伸一は手を出し、増田はその手を固く握り締め、何があっても、信心はしっかり続けることを、ひそかに心に誓った。
彼の信心は、初めて軌道に乗った。全ての問題は、日ならずして氷解した。
ところが、数年過ぎた昭和三十六年に、あの執拗なリウマチが再発した。増田は、今度は文句ではなく、報告かたがた、書簡で伸一に指導を仰いだ。
昭和三十六年といえば、山本伸一が第三代会長に就任した翌年のことである。
彼は、激務の渦中にあったが、かっての山口の友を忘れなかった。さっそく一書を認めて書き送った。
「本日、手紙を頂戴し、びっくりいたしました。さぞ苦しいでしょう。自ら作った罪業は、当然、今世にすますのが道理です。
今の病苦も、実は、御法の功徳力により、軽くすんでいることを自覚すべきです。
一点の濁りなく、ただただ、御本尊様を抱きしめて、人間革命と宿命打開をされますことを、胸奥より祈っております。
長い長い人生です。声高らかに題目をあげて、苦をば苦とさとり、楽をば楽とひらいて、必ず、必ず、来る春を待つことです。
何事も勉強と思って、悠々と闘病生活をされたしです。
御書にいわく『法華経を持ち奉るとは、…』
成仏の出来得る大法を受持して、何で病魔に負けることがありましょうや。大兄の元気な身体と顔を楽しみに。
三月二十二日夜十時三十分 山本伸一」