(『人間革命』第11巻より編集)
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〈転機〉 1
妙法という法則は、永遠であり、不滅である。その法を信受し、流布する創価学会もまた、永遠であり、不滅である。
烈風を恐れず、豪雨にもたじろがず、吹雪に胸を張り、われらは敢然と進む。
尊き仏子の使命を果たしゆくために、民衆の凱歌のためにー 。
昭和三十一年九月五日は、残暑の厳しいさなかにあった。
戸田城聖は、二階の隅にある会長室の窓を背にして、扇子を激しく動かしながら、クレーブシャツ一枚の姿で、思いをめぐらしていた。
机の上には、一枚の日本地図が置かれていた。各県ごとに、数字が書き込まれている。
戸田は、朝から、県別の会員世帯数を見ながら、彼の誓願である七十五万世帯の折伏を成就し、日本の広宣流布の基盤を築くために、何をすべきかを、真剣に考えていた。
長い思索の末に、考えは、まとまりはしたが、学会を取り巻く諸情勢を考えると、今、得体の知れない黒い影が、彼の背後に迫りつつあることを、ひしひしと感じざるを得なかった。
その影とというのは、この昭和三十一年七月の参議院議員選挙で、戸別訪問容疑で検挙された学会員に対する追及が、執拗を極めていることであった。
単なる形式犯として処理されるべき事件を糸口にして、創価学会そのものを、全国的な規模で内偵し始めたという情報が、各所から集まってきていたのである。
その影は、彼の心に付きまとい、日がたつにつれて、薄れるどころか、ますます濃くなっていくのである。
”この裏に、いったい何が潜んでいるのだろうか・・・”
戸田は、いつの間にか、広宣流布の舞台に、容易ならざる影が忍び寄っていることを直感していた。