(『人間革命』第10巻より編集)
42
〈脈動〉 6
伸一は、東京にあって、その日、その日の報告を受けていたが、戸田の疲労を思いつつも、関西の愛する会員の幸せを思った。
戸田が、九日、空路で帰京することを知ると、彼はじっとしてはいられなくなって羽田に駆けつけ、戸田の一行を迎えた。
タラップを下りてくる戸田は、意外に元気な姿を現した。
「伸、私も奮闘してきたよ。もうひと息、ふた息だな」
今、関西に戸田の信心の脈動が、じかに伝わり始めていることを、伸一は感じた。
もうひと息、ふた息は、伸一のなすべき責任として担うことを決意した。
関西の地は、彼の青春の歴史にとって、天王山ともいうべき位置になりつつあった。
彼の頭脳を、もはや関西が占領したのである。
この夜、彼に一首の和歌が生まれた。
関西に
今築きゆく
錦秋城
永遠(とわ)に崩れぬ
魔軍抑えて
二日後の二月十一日は、戸田城聖の誕生日で、満五十六歳を迎える日であった。
関西に永遠に崩れぬ錦秋城を構築、これをもって師の恩に応えようとする伸一は、この一首を、誕生日の祝いの言葉として、戸田に献じた。
戸田は、メガネを外し、紙片に額をすりつけるようにして和歌を読んだ。微笑が頬に浮かび、にこやかな眼差しで伸一を見た。
そして、彼は、ペンを手にしながら、一瞬、思いめぐらしていたかと思うと、さらさらと、その紙片に続けて、一気呵成に認めた。
我が弟子が
折伏行で
築きたる
錦秋城を
仰ぐうれしさ
戸田は、伸一の力闘が何より嬉しかった。