(『人間革命』第9巻より編集)
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〈展開〉 10
「私の立場は、政治、経済、文化のすべての分野にわたって、それを根本的に変革しようとする次元にあるのです」
戸田は、応援演説に来て、文化部が候補者を立てたのは、政治的野心に基づくものではなく、ひとえに民衆の幸福と、社会の平和、繁栄を願う一念より発したものであることを、言明しなければならなかった。
つまり、創価学会が政治化したのではなく、その念願を達成するための一分野の活動にすぎないというのである。
この彼の言明は、この時、多くの聴衆であった当時の学会員からの、正しい理解を得るのは遠かったにちがいない。
まして、一般世間の人びとにとっては、さらに、なんのことやら、わからなかったであろう。
民衆の物心両面にわたる幸福について、その責任を自らに課した戸田は、政治の病根を深く洞察していた。
彼が、こよなく愛した民衆は、相も変わらず政治の重圧に喘いでいる。それが、まぎれもない現実であった。
ー 私利私欲に走り、党略に没頭して、権力の争奪に専念する政治家たち、そのような政治家の徒党集団と化していく政党。
そして政治から置き去りにされ、その犠牲となるのは、常に民衆である。
戸田は、民衆の怒りを肌で感じていた。
しかし、権力悪の根源を見抜いていた彼は、真の民衆のための政治の実現という根本的な変革からは、ほど遠いことも承知していた。
戸田城聖の醒めた心は彼の半生の結論として、政治の世界に巣くう権力の魔性の存在を、疑うことができなかった。
本来、民衆の平和と幸福に奉仕すべき政治が、いつの間にか民衆を苦しめる魔力と化していくー
その現実を鋭く見抜いていた彼にとって、政治の根底的な変革とは、魔性との戦いにこそ、その焦点があることは明白であった。