(『人間革命』第6巻より編集)
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〈推移〉 8
戸田は、まさしく、ひとかどの人物であるようだ。率直で、嘘がない。しかも、十年の知己のように、磊落で、人なつっこい、まれな人格者である。
まことに信頼するに足る人物だと、宗一には思えてきた。
そう気がついた時、宗一は、自然に、自分でも思いがけぬ言葉が出てしまった。
「差し上げましょう」
「下さるか。伸一君のことは、今後、一切、戸田が責任をもって引き受けましょう。ご安心願います」
戸田は、笑みを浮かべ、軽く会釈した。
「よろしく、お願いいたします」
宗一は、居ずまいを正して頭を下げた。
顔を上げた時、戸田は、ひたと宗一を見つめながら言った。
「ところで、実は、伸一君に、縁談が、今、起きたところなんです」
戸田は、峯子のことを詳細に話してから、宗一の決断を促した。
「私に見るところでは、しごく良縁と思われますが、いかがなものでしょうか」
戸田は、宗一の沈黙を予期していた。ところが宗一は、意外にも簡単に答えた。
「伸一は、今、あなたに差し上げたばかりです。どうなりと、いいようになさってください」
即答が返ってきて、これには戸田も面食らった。
彼は、破顔一笑して言った。
「いや、まいった!」
二人は、互いに声を立てて笑い合った。意志の強い戸田と、強情一徹の宗一とが、伸一の結婚について、完全な合意に達したのである。
年を越して、昭和二十七年の一月になると、蒲田支部長の小西武雄を仲人として、結納の儀式が行われた。
そして戸田は、五月三日を、結婚の吉日として選んだのである。