なぜか、いとしい一人の青年 | くにゆきのブログ

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今、自分が感動したこと、また知っていただきたいことを、主に記していこうと思います。

(『人間革命』第2巻より)

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   〈地涌〉 12

 

 戸田は、この詩の最後の一行を聞いた時、にこやかになっていた。伸一は、仏法の「地涌の菩薩」という言葉など、知るはずはなかった。

 

 ただ、最後の一行は、戦後の焼け野原の大地のなかから、時が来ると、雄々しく、たくましく、名の知れぬ草木が生い茂り、緑の葉が萌えるのを見て、その生命力と大自然の不思議さを、なんとなく心に感じ、胸にいだいていたのをうたったのであった。

 

 三日前から、それを一詩に作ろうと願っていたが、たまたま、この席でその詩を発表する格好になってしまったものだ。

 

 伸一が、照れたように腰を下ろすと、戸田は、彼に呼びかけた。

 「山本君、なかなか意気軒高のようだが、体はどうかね」

 

 伸一は、ドキンとした。

 「少し悪いんです。胸が少しやられているんです」

 「肺病か。心配ないよ。ぼくも、ひどかったんだ。片肺は、全く駄目だったんだが、いつか治ってしまっていた。焼き鳥でも、どんどん食べて、疲れている時には、のんきに寝てるんだね。大丈夫だ。まぁ、体は大事にしなさいよ」

 

 彼は、こう言ったあと、一人つぶやくように言った。

 「十九か、大丈夫、十九か・・・」

 

 戸田にとって、この夜、現れた山本伸一が、なぜか、いとしかった。

 

 人びとは、伸一たちの入会決定か否かに、こだわっていた。しかし、戸田は、そのような問題には、少しも触れようとしなかったのである。

 「また、来るよ。今度は、来月になるな」

 

 

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