(『人間革命』第2巻より)
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〈地涌〉 13
伸一にとっても、入会とは、何かに束縛されるような、未だ見たこともない別世界に行くような感じであった。
お先真っ暗な、不安の入り混じった複雑な気持ちであった。
しかし、今夜の衝撃は、どうしようもなかったのである。
もう、入会の手続きなど、どうでもよかった。
ベルグソンのことも、遠い淡い観念の世界になっていった。
戸田城聖という人ー それが彼にとって、実に不思議に、懐かしく思えてならなかったのである。
それから、十日後の、八月二十四日、山本伸一は、御本尊を受けた。伸一は、複雑な表情を隠すことができなかった。
物事を、真面目に、真剣に考える彼にとって、自分の体のことが気がかりであった。彼の体は、決して強靭(きょうじん)とはいえない。
むしろ、病と闘わねばならない日常であった。
彼が、一生涯、宗教革命に、仏法の実践に活躍しきっていけるどうかは、自分でもわからなかったにちがいない。
戸田城聖は、座談会場を出て、品川の山手線に乗り換えた。
同行の幹部は、途中で、さまざまな指導を受けられると期待していたが、戸田は、なぜか、この夜は黙り込んでいた。
その幹部は、”今夜の先生は、どうかしている”と思いながら、彼も黙り込んでいた。