(『人間革命』第2巻より)
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〈序曲〉 4
創価学会の躍進が怒涛の勢いを見せるようになったある日、大石寺の庭で、日亨は戸田城聖たちと談笑したことがあった。
この頃、日蓮大聖人の御遺命である広宣流布が、いよいよ現実の姿となって、浮かび上がってきたのである。
このことから、同席の幹部が、日亨に質問した。
「どうして、もっと早く、広宣流布しなかったのでしょうか」
日亨は、戸田の顔を顧みて、いたずらっぽく笑いを浮かべて言った。
「それは、戸田さんに責任がある。戸田さんがもっと早く生まれて来ればよかったんじゃ」
長身の戸田も、ぐっと何か、鋭く突かれた思いであった。
「猊下(げいか)、私は生まれたくても、猊下が、その時、お生まれにならなかたから、いけないのです。
私は、猊下より三十年遅れて生まれる約束になっております。
猊下が、今、ご出現だから、私も、ちゃんと三十年遅れて生まれてまいりました。猊下のご出現と、ご研鑽を待っていて、私は生まれてきたわけです」
「ワッ、ハッ、ハッ、そうじゃ」
日亨は、高い声で笑った。
戸田も空を仰いで笑った。
仰いだ空に、早春の富士が美しくそびえていた。
同席の幹部たちは、二人のさりげない会話のなかに、不可思議な仏縁を探り当てたような気がして、皆、じっと耳をそばだてていた。