映画「パレード」ラスト10分のための2時間 | 休日の雑記帳

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鑑賞した映画や書籍の感想記録です。
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制作年:2010年

制作国:日本

 

まったく共感できないストーリー展開ゆえに好きではないけど、ラストの寒さ、不気味さ、気持ちの悪さが秀逸で、面白い作品でした。

 

☆あらすじ☆

 

東京のとあるアパートで、4人の男女が大家に内緒でルームシェアをして暮らしていた。最年長で映画配給会社に勤める直輝、自称イラストレーターの未来、無職で俳優の卵と付き合っている琴音と、大学生の良介。ある日、酔っぱらった未来がサトルと名乗る見知らぬ青年を部屋に招いたことから、5人での共同生活が始まった。

 

お勧め ★★★☆☆

 

学生同士のシェアハウス、またはその延長での同居なら理解できるのですが、いい年をした成人男女がひとりの部屋に転がり込み、居候を続けているという事態がまず異常。そんな異常な暮らしに甘んじているだけあって、同居人たちもそれぞれ異常。あまりに常識離れした彼らの人間性にまったく共感できず、この人たち嫌い、という印象だけが募っていく作品でした。彼らの共感性ゼロのバックグラウンドや日常生活を退屈な気持ちで眺めていたのですが、ラスト10分で鳥肌が立ちました。

 

以下、ネタバレを含みます。

 

 

 

 

 

 

 

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登場人物みんな嫌い、みんな変、みんなおかしい。そんな中で唯一良識的だった、部屋の持ち主且つ最年長者の直輝。彼は優しすぎて、おかしな若者たちをひきつけてしまい、拒否できずにいるだけなのだろうかと思いながらもふと、いやいや、類は友を呼ぶ、同じ穴のムジナでなければ共同生活は送れない、という考えが一瞬頭をよぎり、直輝にはどんな異常性があるのかな、とぼんやりと考えていました。

 

でもそんな思考もあっというまに霧散して、いつのまにか直輝だけは常識人と信じて映画鑑賞を進めていたので、ラストには「やっぱり!」ではなく「なんと!」という衝撃を受けました。

 

ストーリーの随所にちりばめられる、女性のみを狙った卑劣な連続暴行事件。その犯人こそが直輝というオチは、確かに一度は頭をよぎっていたにも関わらず、目の前に描かれていくと信じられない思いで寒気がしました。しかし、同時に納得できるオチでもありました。優しく、分け隔てなく居候の若者たちを許し、理解してくれる立派な大人。それを演じる代償として、卑劣な暴力行為が必要だった異常者というのが直輝の正体でした。

 

そして、直輝を慕う若者たちには直輝が必要かと思われたのですが、むしろ彼らを必要としていたのは直輝の方だったようです。彼の根深い闇の全てはわかりませんが、特殊な若者たちを自分のテリトリーの下に置いておくことで、直輝にはなにかしら得るものがあったようです。優越感か、承認欲求か、支配欲か、よくわかりませんが。

 

そして、直輝の卑劣さを十分理解していた同居人たち。善人ぶった暴行魔と寝食を共にできるのみならず、恐れていないどころか、本当はちょっと見下していたかのような、ラストの冷たいまなざし。直輝を一人の人間としてちゃんと認めているのは新入りのサトルだけだったのかもしれません。

 

嘘くさい登場人物たちが嘘くさい共同生活を営み、ラストに見せた本音の表情。下手なホラーよりよほど怖いエンディングでした。途中経過はやや退屈、且つ不快なだけだったので、星2個以下かなと思いつつ見ていたのですが、ラストの衝撃に星一個足しました。

 

ラスト10分のためだけに視聴してもよいのではないかと思える作品でした。