映画「世界から猫が消えたなら」犬と暮らせばいいじゃない | 休日の雑記帳

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鑑賞した映画や書籍の感想記録です。
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今日は何を見ようかな、と思った時の参考にしていただければ幸いです。

 

制昨年:2016年

制作国:日本

 

マリー・アントワネット風のタイトルにしてみました。私は犬も猫も大好きですよ!!

 

☆あらすじ☆

 

若くして治療不能の脳腫瘍で余命宣告を受けてしまった主人公は、自分と同じ顔の悪魔に出会う。悪魔はこのままでは明日死んでしまうけれど、この世界からなにかひとつ消せば余命が一日延びるという。まずは電話を消そう、と言う悪魔の提案に乗り、寿命を一日延ばした主人公だったが、電話が消えた世界からは電話にまつわる思い出や人間関係までも消えてしまっていた。

 

お勧め ★★★★☆

 

電話が消えた世界がどうなってしまったかを見れば、たった一日の延命のために、この世の何かを消す気にはなれないと思ったのですが、目の前に迫る死への恐怖は計り知れず、それを回避できる方法があるなら何でも選んでしまうのが人間なのかもしれません。自分だったら2日目の延命はしないと思うのですが、想像するのと実際経験するのでは大違いなのかもしれませんね。

 

以下、ネタバレを含みます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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電話が消え、映画が消え、時計が消えた世界。それぞれの物がなくなった結果、それにまつわる経験や記憶もすべて失われてしまいました。電話が無くなった世界では、電話をきっかけに付き合い始めた彼女との出会いがなかったことになりました。映画が消えて、映画をきっかけにできた親友、ツタヤとの出会いもなくなりました。時計が消えて時計職人だった父との思い出が消え、次に悪魔が消そうという猫にまつわる過去の思い出に耽ったあと、ようやく主人公は自分の死を受け入れることができました。

 

それぞれの物にまつわるエピソードがドラマティックすぎてリアリティがないのが難点ですが、素直にみればどのエピソードも感動的で、なかなか心に沁みるものがありました。

 

なかでも映画マニアのツタヤとのエピソードが素晴らしい。私も映画好きなので、ツタヤのようにメジャーどころからカルト系まで、多種多様な映画について熱く語れる友人がいればもっと豊かな人生になるだろうなとうらやましい限りでした。私も大学生まではそういう友人もいたのですが、社会人になってからはさっぱりですね。彼らとも疎遠になってしまったので、ツタヤと主人公の関係性は眩しいものがありました。

 

いつも主人公に「見るべき映画」を紹介してくれていたツタヤ。明日映画が消えてしまうという日に、主人公はツタヤに最後に一本だけ映画が見られるとしたら何を見るべきか、と相談しました。「そんな映画はない」と突っぱねるツタヤに自分の余命を伝えた主人公。その後、ツタヤはバイト先のレンタルDVDの棚をひっくり返して「最後の一本」を探すのですが、半泣きになりながら「どうしても見つからない」と狼狽する姿には胸を打たれました。

 

どんなときでも、主人公が今一番見るべき映画を適切にお勧めし、映画談義に花を咲かせてきたのに、それが終わってしまう。主人公の死を受け入れられないけれど、本当に死んでしまうのなら間違いのない最後の一本を選びたい。でも、正解がわからない。選べるわけがないですよね。映画を鑑賞する人生はずっと続いていくはずだったんですから。

 

私だったら、と考えた時、正解だという自信はないけど「ダンサー・イン・ザ・ダーク」が頭に浮かびました。決して明るい映画ではないので微妙ですが、ラストにいいセリフがあるのです。「これは最後から二番目の歌」だったかな、ちょっと違ったかもしれませんが、最後の歌は未来永劫来ない、まだまだあと一曲は残っている、という、ミュージカル好きな主人公の希望を表現したセリフです。余命を宣告されていたとしても、これは最後から二番目の映画だから、見終わったら、また新しい「最後から二番目の映画」を紹介するから、会いに来てほしい。そういうメッセージを込めて。

 

結局「最後の映画」を見られないまま映画は消え、ツタヤとの出会いも消え、ツタヤはレンタルショップの店員ではなく、書店の店員として働いている世界に変わってしまいました。

 

そして猫。レタスとキャベツという猫と暮らしてきた思い出の中には、すでに他界した母との記憶がたくさん詰まっていました。それらの思い出に浸り、ようやく死を受け入れた主人公。大事なのは刹那的な今を生きることではなく、これまで培ってきた過去に繋がる今と未来をそのまま受け入れること。悪魔とのやり取りを経て、その心境にたどり着いた主人公には安らかな終わりが訪れることと思います。

 

悲しいけれど、生きるということ、生きているということの意味を再考したくなるような作品でした。