#24 銀行の認知症客対策 ~ 大した事は書いてない日常生活シリーズ ④ | 吉岡 暁 WEBエッセイ ③ ラストダンス

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WEBエッセイ、第3回

  

 

もう何年も前のこと、私はN銀行で30分待たされたことがある。

私の用件は単純で、100万ばかりの金額を、新設したM信託銀行の自身の口座にトランスファーするだけのことだった。

しかし、私は待たされた。

担当した窓口の女性は、私より後から来た客の応対をしている。

5分ばかり経つと、日頃は温厚な私も段々苛立ち始めた。10分くらい経つと、その苛立ちが顔に出始めたのだろう、初老の男性行員がやってきて、伝統的な揉み手中腰の姿勢で「お待たせして申し訳ございません」と、一日100万回は繰り返しているに違いない軽い口調で言った。

どうであれ、私はそこで始めて知らされた。

これが、認知症が疑われる客を詐欺から守る銀行の「サービス」なのだ。では私は認知症と疑われたのか?と問うと、その男性行員は正直に、(上からマニュアルの徹底をうるさく言われていて)という意味の釈明をした。要するに、65歳以上の客が「30万円以上の用途不明な送金」をしようとしているときは、・・・云々という内規があるのだという。

結果として私は30分待たされたが、それ以上にショックを受けたのは、自分が「認知症を疑われる高齢者」の年齢になったという事実だ。

この事態への対策として、私はオンライン・トレードを勧められ、そのようにした。認知症が疑われる客に、PC操作とスマートフォンの認証が必要なオンライン・トレードを勧めるというのも矛盾していないか??と思ったが、私はそれ以上何も言わずにおいた。

以降、キーボードを叩くだけで、振込みも記帳も嘘のように簡単にできるようになった。(ここのセキュリティー、大丈夫か??)と心配になるほど簡単だった。それで私は、「認知症が疑われる客を詐欺から守る」などというのは建て前で、実は人件費や設備費の削減が最大の狙いなのだろう、と心から確信した。

 

 

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とは言え、あのN銀行駅前支店も、大変と言えば大変に違いない。

何しろ、コミュニケーションに難のある老人客が多すぎる。窓口の行員が何か一つシンプルな質問をしても、三つくらい関係のないことを長々と喋る。手間も時間もかかるし、そりゃ「オレオレ詐欺」にも簡単にひっかかるわなあ・・・と思わせる。

もちろん私も老人客の一人であり、(ええい、爺さん、早くしろ!)などと思っても決して口には出さない。いつか自分だって老化が進めば、オレオレ詐欺にひっかかる可能性もゼロではない。

私の場合、子供が娘だから、「アタシアタシ詐欺」とでも言うか。

もしそういう電話が今来たら、きっとこんな具合になるだろう。

 

詐欺師:「もしもし、アタシ。ごめんだけど、アタシ会社のお金使い込んじゃって。100万円急いでATMで振り込んでくれない!」

:「100万ってなんだ、馬鹿者!どうせイチかバチかやるなら、最低億は行けよ」

 

詐欺師:「もしもし、アタシ。さっき交通事故で人はねちゃって。示談にしてくれるって言うから、100万円急いでATMで振り込んでくれない!

:「もっと値切れ」

 

詐欺師:「もしもし、アタシ」

:「えい、うるさい。アタシもカカシもあるか。お前のような親不孝者とは話もしたくない。ところで、今度はいつ帰ってくるんだ?」

 

いろんな展開が想像できるが、不謹慎ながら、頭がまともな内に一度くらいこの「オレオレ詐欺」というのを経験してみたいものだと思う。

 

                                                                                       (2023.12.20)

 

 

 

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