スダンの亀 -5ページ目

スダンの亀

CardWirthリプレイ「米シック亭」の「スダンの亀」です。
基本テキトー、あと脚色99%原作無視のリプレイでお送りできればと思っております。
捏造の許せない方はブラウザバックでお願いします(^^;)

 異形は、ぎょろりとした瞳で俺たちを睨みつける。

 

 背格好は、人間と同じか、やや小さい程度。

 老人のように、艶を失ってバサバサに散らかる頭髪、まるで人間そのもの。

 けれど、どす黒い紫色の肌と、醜悪な顔立ちが、人間であることを否定している。

 

 その先に、シュットが独り倒れている。

 

「シュット! 大丈夫か、シュット!!」

 

 ここから声を張って呼びかけるが、返事は無い。

 気絶しているのか、それとも……

 

「お前! シュットに何をした」

 

 俺の問いに、異形は答えない。ただグルグルと、喉を鳴らすだけだ。

 チッ、話も通じないってコトか。

 

 

 

 俺も異形を睨み返したままで、剣を抜く。

 それに呼応するかのように仲間たちが構え、敵もまた、獲物を構える。

 

 相手の獲物は、一見するとただの木の棒にも見える。

 なんだ? あんなもので俺たちとやりあうつもりなのか?

 相手の出方も、まるで分らない。

 

「ちょ、戦うんスか!?」

 ロイナは抜け目なく腰の細剣を抜き放ちながら、俺に問いかける。

「ロイナ、あんな魔物知らないんスけど」

「俺もだ」

「未知の魔物と戦うとか……マジありえねー」

「なんだって構わない、俺たちはシュットを取り戻すだけだ」

 

 そう、後先を考えるのは、シュットの安全を確保してからでいい。

 

 

 

 俺は重心を前足にかける。

「深入りはしなくていい。とにかく、奴の動きを止めてくれ!」

 その言葉を合図に、俺たち全員が、同時にうってでる!

 

 

「ハッ!」

 クロネの気合いと同時に、クロネの扇から白色のガスが

 異形に向かって降り注ぐ。

 足止めの決定版、眠りの雲だ。

 

 これで眠りに落ちてくれれば、あとはシュットを抱えて逃げるだけだが……

 

 

 

「グガァァァァl!」

 

 異形は一吠えすると、手にもつ杖を一振りにする。

 するとたちまち眠りの雲は、突風に散らされるかのように掻き消される。

 

「そんな、わたくしの術が、ただの棒なんかに……!」

 

 愕然とするクロネ。

 

 

 

 一見、何の策もなく失敗したかのようにみえたクロネの呪文。

 けれど、それで十分。

 その一瞬の隙をついて、ベルゼとロイナが切り込んでいる!

 

 ロイナの細剣は複雑な軌道を画き、たった一本にもかかわらず、

 右へ左へと注意をかき乱す。

 その隙を狙って、単純明快、ベルゼの剣閃が魔物の頭上から振り下ろされる。

 

 魔物が間一髪それを避けると、打ち下ろされたベルゼのツヴァイは、

 地下室の床材に使われていた石版を、木端微塵に粉砕する。

「うっひゃあ! マジやば!」

 その光景を初めて目の当たりにするロイナも、驚きの声をあげた。

 

 

 

 すべての攻撃を華麗にかわしきる異形。

 どうやら、一対一の実力は相手が上手、格上のようだ。

 

 それでも、俺たちの即興の連携は、これで終わりじゃない。

 むしろ、大本命がまだ残っている。

 それこそが……

 

「俺だッ!!」

 

 魔物の飛びのきを予想していた俺が、それに合わせて飛びかかる!

 俺の渾身の唐竹割りは、既に魔物の頭上を捉えている。

 これは避けられない!

 

 魔物も、回避ができないと悟ったのだろう、

 杖を縦に構えると、攻撃を避けるでも受けるでもなく

 剣の腹を押し流すことによって、俺の攻撃を払ったのだ。

 

 俺は、重心をずらされ、着地に失敗するも、

 何とか転がることでダメージだけは免れる。

 

(あの攻撃を避ける……なんてやつだ!)

 

 

 

 まさか、不十分な体勢から、機転を利かせ、すべての攻撃をかわし切るとは思わなかった。

 が、攻撃が当たろうが躱されようが、そんなことはどちらでも構わない。

 

 なぜなら、相手への攻撃はフェイント。

 真の目的は別にある。そしてそれは、もう既に達成されたのだ。

 俺が転がった先、そこは、シュットが倒れているすぐ目の前なのだから!

 

 俺たちの攻撃は、最初からこれが目的。

 応酬のドサクサに紛れてシュットを助け出すことこそが、第一の優先事項だったのだ。

 

 

 

「シュット、シュット!」

 俺はシュットの上体を起こし、呼びかける。

「う……」

 よかった、少なくとも、息はあるようだ。

 仲間たちが魔物をけん制する中で、俺は何度もシュットの名を呼ぶ。

 

 ついにシュットは、目を覚ました。

「……スダン? ……!? どうしてここに!?」

 俺の顔を認めたシュットが、目を丸くする。

「お前を助けるために決まってんだろ」

「でも、私……」

 泣きそうな声を出すシュット。

 けれど、いまはそんなことをやっている場合じゃない。

「わかった、話は後でたっぷり聞こう。

 まずは……アイツをなんとかしないとな!」

「……うん!」

 

 

 

 立ち上がったシュットを交えて、俺たちの第二ラウンドが始まる。

 無事に立ち上がるシュットを確認し、ベルゼがニヤリと笑う。

「お姫様の救出は終わったみたいね。

 もう、時間稼ぎの必要はないわね……!」

 

 ベルゼが、ツヴァイを横肩に担ぎ、大きく横に構える。

 魔物は、先ほどのような連携攻撃を警戒して、集中力が散漫になっている!

 そのチャンスを、ベルゼは逃さない。

 

 彼女の瞳が、鷹のように光る。

「アナタが何物か知らないけれど……

 アタシの仲間に手を出して、ただで済むと思わないことね!」

 

 低い体勢のままの鋭い踏み込みは、先ほどの打ち下ろしの比ではない。

 まさに倍速、風薙ぎの音とともに、魔物の胸を撃つ。

 

 

 

 そのまま壁に叩き付けられる異形を、さらに仲間たちが追う。

 クロネが、ロイネが、その得物を魔物の急所に叩き込む。

 

 膝をつく魔物に、俺が魔法の掌破の一撃を放つ。

 

 それらの攻撃をまともに受けた魔物は、見た目にもはっきり分かるほどに

 苦しそうにもがいている。あと一押しだ。

 

 

(思ったより、呆気なかったな)

 

 ビッグフットとの戦いで学んだ、フェイントを有効に交えた攻撃。

 相手が格上でも、数でさえ勝れば、フェイントを使うことで

 こちらの攻撃を有利に展開することができる。

 その戦法が、この戦いでも見事に当てはまったことになる。

 

 結果、俺たちは無傷で、格上の魔物を追い詰めることに成功していた。

 

(経験の勝利だ)

 

 俺は、まだ戦いが終わる前から、勝利の韻に浸っていたのだろう。

 いや、俺だけじゃない。

 このはるかに有利な状況に、誰もが安堵していた。

 

 

 

 ……だからこそ、一瞬、奴の杖が光るのを見逃したのかもしれない。

 

 ビュン!

 

 突如、聞きなれた、魔力が空中を走る音がする。

「かっ!」

 その音に、ベルゼが肩から血を噴き出して倒れる。

 

 俺は一瞬何が起きたのか分からなかったが、

 ベルゼの苦悶の表情に、遅れて状況を理解する。

 

「魔法の矢か!」

 

 

 

 ベルゼを襲ったのは、魔物の放った魔法の矢だったんあ。

 魔物が持っていた棒、あれはただの棒じゃない!

 魔法の威力を高めるための杖……魔道具だ。

 

(もっと早く気づいていれば……)

 

 俺は口の中で舌をうつ。

 あまりに相手からの反撃が手薄なことに、もう少し注意を払うべきだった。

 

 奴は、俺たちの策に為す術もなく嵌っていたワケじゃなかったんだ。

 あれは、俺たちの様子を見ながら、じわじわと魔力を高めていたんだ。

 

 俺たちを纏めて、葬り去るために!

 

 

 

 魔物が、震える右手で杖を高く掲げる。

「マズい! みんな、逃げろぉ!」

 

 俺の言葉に、一番入り口近くまで下がっていたロイナが扉に駆け寄ろうとする。

 魔物はそれを見逃さなかった。

 

 魔物の左手から、魔法の矢が放たれる。

 それは俺たちの横を通りぬけ……

 

 入口の、ドアノブを破壊する。

「ヤバ、閉じ込められた!?」

 ロイナは必死に、開いた穴から、扉をこじ開けようとするが、時すでに遅し。

 

 部屋中に白い煙が立ち込める。

 

 

 

 魔物が、先ほどの礼と言わんばかりに、眠りの雲を放ったのだ。

 地下室は広く、俺たちは熟睡こそせずに済んだが、意識はもうろうとして、動きは緩慢。

 もはや、無抵抗もいいところだった。

 

 

 

 

 俺たちが動けないことを確認し、魔物は目を細め、長い舌を出しなめずる。

 まるで、これから仕留めた獲物を食わんとする、猛獣のようだ。

 

 その姿に、俺は不意に、森でクロネが語ったおとぎ話が頭に浮かぶ。

「……魂喰」

 

 俺たちは、こんな魔物に食われて終わっちまうのか……?

 

 

 

 魔物は、これ見よがしに指を高く上げると、

 遠目にもはっきりと分かるほどに強力な魔力を指先に込める。

 ドアノブを撃った魔法の矢の比ではない。

 どんな屈強な人間だって、あれを受ければひとたまりもないだろう。

 

 その指先は、先ほど逃げようとした仕置きだと言わんばかりに、

 ロイナの豊満な胸の奥に埋まる、心臓へと真っ直ぐに向けられる。

 

「……ちくしょう、こんな、ところで……!」

 

 ロイナは、じたばたともがくものの、体に力が入らず、

 ただ遠くから自分にを狙い、徐々に徐々に強まっていく光を為す術もなくながめるしかない。

 その口惜しさからだろうか、彼女の頬を涙が流れる。

 

 体に力が入らないのは、俺も同じ。

 動かそううにも、体が反応しない。

 

(どうにもならないのか!? どうにも……!)

 

 

 そんなロイナに、一かけらの同情さえ見せず、

 魔物の魔法の矢がついに、ドウと空気を震わせ、指から飛び出す。

 それがロイナに向かって真っ直ぐにとび……

 

 

 

 ……小さな影に、遮られた。

 

 

 

 その影は、シュットだった。

 

 シュットはなんとかその小さな体を起こし、身を盾にしてロイナを庇ったのだ。

「ドンちゃん!? どうして……」

「……どんなにイヤな人でも、今は、ロイナだって仲間だから……。

 だから、スダンが私を見捨てなかったように、私もロイナを見捨てない……それだけの……こ、と……」

「そ、そんなコトで……。今まで必死で、繋がりを、盾を、居場所を……作ってきたロイナ、バカみたい……じゃん……」

 

 そして二人は、折り重なるようにして、気を失う。

 

 

 

 俺は、自分自身に対して、怒りがこみ上げる。

(クソ! 何してるんだ、俺の体は……! 動け、動け、動け……!!!)

 そう何度心の中で叫ぼうとも、自分の指先はピクリとも動かない。

 不甲斐なさに、奥歯がガチガチと鳴る。

 

 

 

 魔物は2人が動かなくなったのを確認し、その指先で、今度はクロネを撃つ。

「うっ!」

 クロネも、昏倒しながら対抗呪文を唱えるが、

 魔法の矢を、急所から僅かに反らせる程度の効果しか発揮しなかった。

 身を裂くダメージにクロネの意識は、そこで途切れる。

 

(ベルゼ、シュット、クロネ、ロイナ……

みんな、すまねぇ……俺が不甲斐ないばっかりに……)

 

 

 

 俺の心が折れかけた時、俺よりもずっと激しく、直球な怒りが、広い空間に響き渡った。

「やめろぉぉぉぉぉぉ!」

 叫んだのは、イヒトだった。

 

 初めて聞くイヒトの叫び。

 イヒトは無我夢中で飛び出すと、魔物に掌破を叩き込もうと、その手を振り上げる。

「うあああああああああ!」

 だが、魔物もその初動にこそ怯んだが、

 一直線なイヒトの動きを捕え、またその杖に魔力を蓄え

 迎撃しようと睨み付けている。

 

 このままではいけない!

 

 

 

 イヒトの咆哮に、俺の心も、目が覚める思いだった。

 俺は全身に全力を込めると、掌を持ち上げ、

 魔物の杖に向かって魔法の掌破を叩き込む!

 

「!」

 

 狙いのずれた杖から放たれる矢は、イヒトではなく壁を撃つ。

 そしてその隙に、まっすぐに飛び込んだイヒトの掌破が、魔物の頭を打つ!

 

「はぁぁぁぁぁ!!!」

 

 だが、魔物もの切り返しも早い。

 杖を弾かれるも、貯まった魔力を利用して、

 イヒトに魔法で出来た糸を浴びせかける。

 

 ”蜘蛛の糸”だ。

 

 結果、二人は相うちとなり、魔物は壁へ、イヒトはその場に、糸にからめとられて動けなくなる。

 

 

 

 体を起こして近寄ろうとする俺に、イヒトは首を振る。

「僕はここまでです。最後を、お任せします」

 その言葉と覚悟に、俺はハッとする。

 その通りだ。まだ奴は、死んじゃいない。

 

 魔物は、壁から這だし、まだこちらを睨み付けている。

 

 ここで詰めを誤ってはならない。

 まったく、イヒトの方が俺より、この状況をよっぽど理解しているじゃないか。

 

 

 

 俺は掌にありったけの気合いを込める。

「シュット、イヒト……お前らの心意気、確かに引き継いだ!」

 俺の右手が光、唸りをあげる。

 

「くたばれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

 

 俺の右手がヤツの顔に覆いかぶさり、その圧力が奴を壁面へと押し戻す。

 ドンッ! と炸裂音が響き、俺の掌を支点に、壁に蜘蛛の巣状のヒビが入る。

 

 魔物の腕はビクリと硬直したが、やがて力が抜けたように、だらりとぶら下がった。

 

 

 

 ……俺たちは、なんとか生き残ったのだ。

 

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 俺たちは最低限の治療をし、互いの無事を確かめあう。

 

 だが、シュットはどこか、やりずらそうな表情をしている。

「……怒ってないの……?」

 そんなことを聞くのだった。

 

「怒る? どうして」

「だって、勝手にいなくなったうえに、皆を危ない目にあわせて……

 私、また、皆の役にたてなくて……」

 

 その言葉に、俺たちは顔を見合わせた。

 

(やっぱり、気に病んでいたのか)

 

 俺は、シュットに言葉を駆けようとして、けれど、

 この場にもっと適任な者がいることに気がついて、答えるのをやめる。

 その代わり、もじもじと視線をそらしているソイツに対して、俺は声をかけた。

 

「ほれ、なにか言いたいことがあるんじゃないのか、ロイナ」

「うっ……」

 

 その言葉に、ロイナはまだしばらくもじもじとしていたが、

 やがて、目を合わせないまま、弱弱しくつぶやいた。

 

 

 

「あ……アリガト、ドンちゃん。庇ってくれて……」

 

 

 

 ロイナの、きっと嘘ではないその言葉に、シュットは口を開け、目を見開いた。

「ロイナ……?」

「……ドンちゃんに守られるなんて、ううん、

 守ってもらえるなんて、思ってなかった……」

 

 そう言ってロイナは、顔を赤らめる。

 

 俺もシュットに笑いかける。

「な? 関係ねーんだよ。役にたつとか、たたないとか、そんなことはウチじゃあ。

 それに、このパーティにはお前の事を”役立たず”なんて思ってる奴は一人もいないぜ。

 もちろん、コイツも含めてな」

 

 言いながら、俺は軽くロイナの頭をチョップする。

 

 

 

 俺たちのやり取りに、少しずつ涙をためるシュットに、

 イヒトがスッと、ハンカチを差し出す。

「……イヒト君?」

 イヒトを、ハッと見上げるシュット。

 イヒトは、いつも通りの無表情のままで言う。

「涙や鼻水が袖につくと、落ちないですから」

「ば、バカッ!」

 

 シュットは首を傾げるイヒトからハンカチをひったくると、顔を拭う。

 そのズレたやりとりを聞いて、俺たちはようやく、肩の力が抜ける心地がするのだった。

 

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 不意に、部屋の周りに、ちらちらと光が舞い始める。

 それは、俺たちが戦いできがつかなかった、奥の扉からこぼれてきているようだった。

 

「不思議と、イヤな感じはしないわね」

 

 ベルゼが呟く。

 俺は全員を、そしてロイナを振り返る。

 

「開けるが、いいか?」

「……もうこれ以上の事は、起こんないスよね。

 信じるッスよ、皆さんのカンを」

 

 

 

 俺たちが扉を開けると、そこには。

 四方を呪符で区切られた空間に、温かいが光が、いくつもいくつも、

 まるで捉えられているかのように、輝いている。

 

 そしてそれは、俺たちの開いた扉からゆっくりと外へ出ると、ふわふわと天へ昇って、消えてゆく。

 いくつもいくつも、蛍群れのように、ゆっくりとゆっくりと、天へ昇ってゆく光たち。

 

 その中には、俺たちが見知った姿もあった。

 俺たちの前に現れたのと全く同じ光。

 それは次第に人の形を取り、その姿をぼんやりと、俺たちの前に表した。

 

「神父、さん……?」

 そう、その姿は、まさしく俺たちを教会へと招き入れた、神父のものだった。

 

 天に昇ってゆく、彼の口が、かすかに動く。

 その唇は俺には、「ありがとう」と言っているように見えた……。

 

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 結局俺たちは、神父もなにもいなくなったその廃教会で、昼まで世話になることにした。

 なにせ全員ボロボロで、到底起き上がることなどできそうになかったのだ。

 

「世話になったわね」

 

 ベルゼが、出発前に、神父の部屋に一輪、花を花瓶に立てた。

 

 

 

 俺たちは教会を発ち、昨日の雨からは想像もつかないほどの青空の下を行く。

 

「でもシュット、お前よく無事だったなぁ」

 俺が言うと、シュットは懐から、赤い装飾の十字架を取り出す。

「これが、守ってくれたみたい」

 教会の中で見つけたモノだそうだ。

 なんでも、教会に一つだけ残っていた死体が、最後まで握りしめていたモノらしい。

 魔術を無力化する力を持った品のようだ。

 

(そうか、アイツは、魔法が中心の魔物だったから……)

 

 俺の無粋な考察は、ベルゼの言葉によって掻き消される。

 

「それじゃ、その人の祈りが、守ってくれたのねぇ」

「……そうだな」

 

 シュットは、ありがとうございますと何度もつぶやいて、

 その十字架を大事に抱えた。

 

 

 

「魔法の品といえば」

 

 今度はクロネが、声をあげる。

 掲げたのは、魔物が使っていた、木の棒。もとい、杖だ。

 

「この杖、強い力を持っていますわね」

 クロネが杖を振うと、いつもクロネが使っている死霊術の矢が、杖の先から飛び出す。

 

「あの魔物も、どこでそんなものを見つけて来たのかしら」

 そのベルゼの言葉に、クロネは口元を抑える。

「サア……あの魔物、姿形は人間にもよくにていましたから……

 魔物が、強い杖を持ったのか。

 強い力を持つ杖を持って、人間が魔物になったのか……」

「ゲッ!? ま、まさかクロネも、魔物になっちゃたりしないわよね?」

「ふふ……わたくしはだいじょうぶですわ。

 なんといっても、わたくしは魚人。魔物なんですから」

 

 クロネはそう冗談めかして笑った後で、仕切りなおす。

 

「毒も薬になるといいます。

 強力な道具なら、有難く使わせていただこうじゃありませんか」

 そうして杖を構えて見せるクロネに、イヒトが言う。

「扇子の方がすきです」

「あら」

 こうして、杖はとりあえず、荷物袋の肥しへと変わった。

 

 

 

「ロイナ、くったくたッス。はやく帰って、風呂入りて―」

 紙巻の、細い葉巻をふかす。

「キャラはいいの? そんなとこ見られたら、親衛隊のみんなが卒倒するわよ」

 ベルゼの問いに、ロイナが笑う。

「イヤーなんか、ロイナもバカらしくなってちゃって。

 素で過ごしていいんなら、その方がラクかなー、なーんて。

 このパーティなら、素で過ごしてていいんスよね?」

 

 その言葉に、俺は思わず意地悪をしてみたくなる。

 

「おいおい、”こんなパーティやめてやる”んじゃなかったのか?」

「ゲッ、それ聞いてたんスか、スダンさん……」

 

 するとロイナはコロッと態度を変えて、俺の腕に抱き付く。

 

「スダン先輩☆ ロイナ、もっともっと皆さんと一緒に旅がしたいですぅ☆」

 

 そして、その胸を、2、3回、クイクイと、俺の腕に押し当てる。

 

「どう、ですか……?」

「イイ……すごくイイ……」

「やったー☆」

 

 俺たちのやりとりに、ベルゼの拳が、なぜか俺の顔面に飛ぶ。

 シュットもご立腹だ。

 

「ダメ! ロイナ、それ禁止!」

「ウィッス! サーセン、シュット先輩」

 

 

 

 さわやかな風が吹き抜ける中、俺たちはパーティ6人全員で

 のんびりとリューンに向けて歩き出した。

 

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宿:米シック亭

パーティ:スダンの亀

依頼:なし(眠りの森)

結果:報酬なし  入手:隠者の杖 守護の聖印

 

レベルアップ:

クロネ 2 → 3

イヒト 1 → 2

 

 

 

ツケ:

スダン -4000sp(支度金)

ベルゼ -4000sp(カウンター修理費)

シュット -4000sp(壁修理費)

クロネ -4000sp(遺跡弁償代)

イヒト -4000sp(聖北退会違約金)

 

計 -20000sp

 

 

 

ロイナ=ハラグ