スダンの亀 -4ページ目

スダンの亀

CardWirthリプレイ「米シック亭」の「スダンの亀」です。
基本テキトー、あと脚色99%原作無視のリプレイでお送りできればと思っております。
捏造の許せない方はブラウザバックでお願いします(^^;)

 teneです! 思いつき更新。

 

 今年の更新は正真正銘、これが最後となります。

 よいお年を!!

 

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 雪の積もるリューンの街並み。

 その中を、せわしなく人々が行き交う。

 

 雪の中ではしゃぎまわるのは子供の仕事と相場が決まってはいるが、

 この半月ほどは話は別、忙しそうにしているのは、大人たちの方だ。

 

 これが師走。

 その一年で、最後の月。

 めいめいが今年の清算をし、来年に備える、リューンでも最も忙しい月の一つなのだ。

 

 

 

「まっ、冒険者には関係ないけどな」

 俺は行き交う人々の背を窓辺に眺めながら、欠伸を一つする。

 

 冒険者には年末も平日もない。

 ただ、依頼が来ればそれをこなすだけ。

 

 小さな依頼は確かに数を減らすが、年によっては大きな仕事がゴロゴロと舞い込むこともある

 それが冒険者にとっての年末。

 

 

 

 だから冒険者の行動パターンは、二つに分けられる。

 

 一つは、前々から依頼やバイトを探しておいて、

 いつも通りの稼ぎを得るタイプ。

 

 そしてもう一つが、宿に張り込み

 大きな仕事で一山あててやろう、というタイプ。

 

 今年の俺は後者だった。

 年末に大きな仕事が舞い込めば、ツケを一度に完済できるかもしれない、

 そんな淡い期待があったのだ。

 

 

 

 結論だけ言えば、そんな甘い話がまかり通るはずもなく

 今年は静かな年だった。

 

 日も落ちはじめ、依頼もぱったりと途絶えたまま、

 親父は冒険者たちの年末の祝いに、忙しそうに料理をつくる。

 

 

 

 肉の焼ける匂いが、酒場に立ち込め

 俺の腹がひとつ、ぐううと鳴る。

 親父の料理は、それはそれでたいしたものだ。

 

 だが、俺はふと思う。

 

 

 

 このまま、何もせずに年をこしてしまって、本当にいいのだろうか?

 

「いや、いいはずがない!」

 

 俺は、自分の心呟きの反語を自分で補完し

 突然の叫びに、俺を白い目で見る仲間たちの冷たい視線も気にせずに

 頭をフル回転させる。

 

 

 

(たとえば……良く焼いた分厚いステーキ……それはそれでウマそうだが、

 特別感に欠けるな……)

 

 なにか、いいアイディアはないものか。

 

 

 

 ふと、掲示板の隅に貼られた、判で刷られた一枚の安紙が目に入る。

「……これだ!! これこそが、俺の求めていたものだッ!!」

 二度目の奇怪な叫びに、仲間たちの視線は、さらによそよそしくなっていた。

 

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「ドラゴン焼き肉?」

 道すがら、今日の目的を説明した俺の顔を

 シュットが、興味津々といった表情で振り向く。

「そうだ。ドラゴンなんか、食ったことあるか?」

「ううん、ない!」

 

 

 

 ドラゴンとは、言わずと知れた世界最強の生物である。

 巨大な体、凄まじい筋力、再生、飛行、さまざまな効力を持ったブレス。

 

 滅多に人前には姿を現さないものの、

 一度現れれば、国が一つ消滅することさえある、危険な存在。

 

 その羽根のように軽く、鋼ように固い鱗は、最強の素材となりえるし

 肉はよく魔力を蓄え、魔術の触媒にも最適だという。

 その血は不老不死の力を与えるとか、万病を直すとか、

 とにかくトンデモな生き物なのである。

 

 

 

 それだけに、食用に適している種でさえ、

 その肉が一般人の口に運ばれると言うことは、まずありえないのだ。

 

 

 

「ところがどっこい、食えるところがあるんだな、これが!」

 

 そう、それこそが、俺の見つけたチラシ。

 なんと、ドラゴン焼き肉の専門店が開店したというのだ。

 

 折角の年末だ、これを食わずに過ごす手はない!

 

「それが、ここだ」

 

 

 その店は、宿からすぐ近くの距離にあった。

 間だ新しい暖簾には、赤い東方文字で”焼き肉”と書かれており、

 その横には、大きな開店祝いの花束を飾ったであろう

 立派な花瓶が立てかけてある。

 

 もっとも、もうその花は、近所の人々に配られてしまったらしく、

 花瓶はすっかりカラッポになっている。

 

 

 

「ねぇ……でも、ドラゴンの肉なんて、オタカイんじゃないの……?」

 ベルゼが、人目を気にしながら、俺にコッソリという。

「一人30sp、飲み放題つきってのが、標準コースみたいだな」

 

 俺の言葉に、ベルゼの顔が曇る。

 

 

 

 正直ドラゴンの肉が食べられるなら30spなんて安い。

 普通のバイキングだって、25spか30spくらいは平気でとっていくものだ。

 

 けれど、収入の安定しない俺たち冒険者にとっては、

 もちろん一食に30spというのは結構な出費。

 

 俺だって、”この値段のままなら”、皆を誘ったりはしないだろう。

 

 

 

 俺はチラシの一点を指さす。

 

「ところが。なんと開店セールで、今日まで半額なんだ!」

「半額!!!」

 

 俺の言葉に、ベルゼの眼が輝く。

 

「なにボサボサしてるの、みんな! 行くわよ!!」

 

 その変わり身のはやさに俺たちは笑いあい、

 ベルゼに続いて暖簾をくぐった。

 

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 店内は、綺麗に磨かれた新しいテーブルが並び、

 そのには排気管のついた、独特の形状のコンロが設置してある。

 そんなテーブルが、何台も並んでいる。

 

 10ほどあるテーブルは既に満杯に埋まっており、

 俺たちの後ろにはもう行列ができている。

 

 俺たちがすぐに座ることが出来たのは、

 タイミングが良かったというよりないだろう。

 

 

 

「いらっしゃい!」

 

 店主と思われる、優しそうな顔の壮年の男が

 威勢のいい挨拶をくれる。

 

「うちの店は初めてかい? うれしいねぇ、どんどん食ってってくれよ!」

 店主は目じりに深い皺をつくって、大きく口を開けて笑う。

 

 

 

「ようし、それならまず1人、”焼き肉奉行”を決めてもらおうか」

 

 店主からの聞きなれぬ言葉に、俺たちは顔を見合わせる。

 焼き肉奉行? 聞いたことがないが……

 

 店主は「ふむ……」と、窓の外を眺める。

 

「……いいか。焼き肉は……網の上ってのは戦場なんだ。

 ひとたび焼き肉が始まれば、すべては戦い……あれを見ろ」

 

 

 

 店主が、ある卓を掌でさす。

「うっ!?」

 そこでは、ある冒険者のパーティが

 焼いた肉を我先にと奪い合う、悲惨な地獄絵図が展開している!

 

 焼けた一枚の肉を、三人もの男たちが奪い合い

 パーティの紅一点であろう女性は、可愛そうに

 一枚の肉すら与えられていないのだろう、

 あまりの空腹に、目を見開いたまま机の上に倒れている!!

 

 

 

 店主は語る。

「あれが、奉行なき焼き肉の姿。

 焼き肉の前には親兄弟恋人までも意味がない。

 ただあるのは、血を血で洗う、醜い肉争いだけだ。

 

 しかしワシは思う。

 

 肉の前には、人類は全て平等で、平和で、笑顔でなければならんのだ!」

 

 店主が拳を握る。

 

「ワシは、あの悲しい姿を目の当たりにしてから、長い年月考えた。

 どうすれば、皆が平和で、ウマい焼き肉を楽しめるのか……

 

 そしてたどり着いた答え……それが焼き肉奉行だ!」

「焼き肉奉行、ソレは……どんな」

「焼き肉奉行とは! 肉の焼き加減を常に監視し、

 食べる仲間たちのペースに気を配り、潤滑に焼き肉の卓を回す……

 いわば、焼き肉の救世主!」

「救世主……!」

 

 その言葉が、俺の心に火をつける。

 

「面白い……平和で平等な焼き肉奉行、上等じゃねぇか!

 焼き肉奉行、やってやるぜ!!」

 

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 運ばれてくる、さらに美しく並べられた、肉、肉、肉。

 赤身、タン、ホルモン。引き締まった筋肉に、適度な脂肪の乗った霜降り肉から

 強烈に赤い真っ赤な肉に、しっかり1センチほどの脂身がつく固めの肉まで

 あらゆる種類のドラゴン肉が並べられる。

 

 それから、リューンで取れた、冬野菜。

 越冬キャベツを始めとする野外の野菜もさることながら、

 温度の一定している地下に、魔法による日照を実現して育てられる

 有機魔法栽培の、艶やかな野菜たち。

 

 それをサポートするように添えられるタレと、

 焼き肉専用の食器だという”ハシ”。

 

 すべての役者は今、俺たちの前に揃えられた。

 

 

 

「さあ、行くぜ!」

 俺は、奉行用ハシで霜降りの肉を取ると、

 網の上にサッと乗せる。

 

 ジュウウウと音をたて、肉から煙が登るとととに

 ドラゴン肉のいい油の香りが、俺たちを包み込む。

 

 その香りにベルゼが驚愕の表情を浮かべる。

「すごい……ほんのりと野性を感じさせる、山の匂い。

 でもそれは、獣臭さや、土臭さなんかじゃない……

 食欲を誘って放さない、正に王者の香りだわ……!」

 

 ドラゴンの肉から一滴、油が滴りおち、それが七輪の炭に当たって

 ポウと小さな炎を上げる。

 その滴りに呼応するかのようにベルゼの口からはトロリと一筋

 涎がテーブルへと垂れる。

 

 ほんのわずかに反り返る、肉。

「ここだ!」

 俺はその期を逃さず、肉をひっくり返す。

 

 肉の裏面は程よく赤が消えて美しい焼き肉色になり、

 その美しさを強調するかのように、網目状に焦げ目は走る。

 

 それからさらに数秒、肉が落ち着くと同時に

 俺はその肉をベルゼのさらによそった。

 

 

 

「どうぞ召し上がれ。シェフの至高の逸品を」

 

 あまりにも美しいその出来栄えに、

 ベルゼは肉をタレにつけることも忘れたまま、震えるハシを必死でおさえながら、

 その肉を恐る恐る口へと運ぶ。

 

 その瞬間、ベルゼの瞳から、涙が零れ落ちる。

 

「……最初に感じるのは、そのやさしい口触り。

 舌の上でとろりと甘くとろけるその油。

 そして、ドラゴンの風味が口中に広がるわ。

 

 それは決して、竜のものだけじゃない。

 竜がそれまでに捉え、捕食したすべての存在……

 生きとし生けるものすべてを平等に食物とする、

 ドラゴンの雄大さよ。

 

 あらゆる生命の鼓動が、口の中にあふれてくるみたい。

 こんな、こんな肉があったなんて……!」

 

 ベルゼの言葉に、仲間たちがゴクリと喉を鳴らす。

 

 

 

 俺は言う。

 

「お前らは、安心して俺に身を任せておけばいい……

 なぜなら、公明正大な焼き肉の救世主、焼き肉奉行の俺が、ここに居るのだから!」

 

 そして俺は、次々に肉を、網の上へと乗せて行った。

 

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「スダン! やる気ありますの!?」

 クロネの厳しい言葉が飛ぶ。

 いや、クロネだけじゃない。いまや、俺を見る仲間たちの視線は厳しいものへと変わっていた。

 

「なぜだ、なぜこんなことになってしまったんんだ……!?」

 

 俺は愕然と膝をつく。

 なぜなら……肉のほとんどが、炭になってしまったのだ!

 

「ぐっ、バカな……俺は、公正な焼き肉奉行、こんなことは……」

 

 大切な高級肉を、俺は次から次へと炭に変にしてしまった。

 食べることができたのは、半分以下だろう。

 仲間たちは皆、腹を鳴らしている……。

 

 こんな愚行が、許されていいはずがない。

 

「ま、まだだ、親父、もう一皿追加だ!!」

 

 だが、親父は悲しそうに首を振る。

 

「残念じゃが、さっきの皿がラストオーダーじゃ」

 

 ラストオーダー。

 その最後通告に、俺は、力なく途方に暮れる。

 

 だが、いまさらどうしようもなかった。

 俺たちの焼き肉は、もう、終わったのだから……

 

 

 

「……まだよ」

 ベルゼが、グッと拳を握りしめる。

 

「まだ終われない……私達、このままじゃ帰れないわ」

 

 そう言って、キッと顔を上げる。

 

 けれど、どんなにわがままを言ったって、もうおしまいだ。

 ラストオーダーの前に、客のわがままなど、通るはずがない。

 

 それでもベルゼは、首を振る。

 

「スダン。アタシたちは、肉を食べたい、その思いだけでここへ来たのよ。

 それも、ドラゴンの肉を、お腹いっぱいに食べたい、そんな思いでここへ入ったの。

 

 いわばそれは、自分たち自身への依頼だわ。

 アナタは依頼主として、こんな結果で満足できるの!?」

「でも、もうラストオーダーが……」

「……スダン、アタシたちが誰だか忘れたの。

 アタシたちは冒険者よ。常識なんか通用しないわ。

 アタシたちが満足した時、それが本当のラストオーダーに決まってるじゃない」

「ベルゼ……」

「さあ、あの店主に見せてやりましょう! 冒険者の生き様ってヤツを!」

 

 そしてベルゼは、店主に向かって叫ぶ。

 

「追加料金を払うわ! 延長よ!!」

 

 

 

 ……そして、二時間後。

 

「……アタシの……アタシのお肉が、炭に……」

 

 ベルゼも、俺と一緒に、消し炭へと変わっていた。

 

「の、飲まなきゃやってられないわ……酒、おさけ……」

 

 ベルゼはふらりと立ち上がると、彷徨うように厨房へと入っていく。

 

「おい、ベルゼ!」

 立ち上がろうとする俺を、シュットが静止する。

「スダン……今は、そっとしておいてあげよう」

「シュット……」

 

 俺には、ベルゼの気持ちが、痛いほどわかる。

 みんなの期待を裏切り、失望を買ってしまったんだ。

 

 俺だってさっきは、もうこのパーティにはいられないんじゃないかと

 本気で思ったほどだ。

 

 この中の誰よりも、ドラゴン肉を食べたがったベルゼ。

 アイツがその焼き肉奉行を失敗した、この傷は、あまりにも大きいのだ。

 

「ドラゴン焼き肉で負った傷を癒せるのは、ドラゴン焼き肉しかないんだよ……」

 

 シュットは、悲しそうに呟く。

 そして、その手をギュッとにぎりしめ、俺の顔を見上げる。

 

「だから、3回目は成功させよう!」

 

 

 

 ……さらに二時間後。

「私なんて炭……いや、それ以下の存在……」

 虚ろな瞳のシュットが、テーブルの下に潜り込む。

 

「おい、シュット!」

「キャハハ! どんちゃんマジどんくさーい。ウケる」

 

 ロイナが腹を抱えて笑うが、流石に俺は笑う気になれない。

 

「なら、お前がやってみろよ!」

 俺の言葉に、ロイナはフフンと鼻をならす。

「スダンさん、ロイナの料理のウデ、忘れちゃったんすか?

 オーケーオーケー、ロイナの料理で、みんなハッピーにしてあげますよ!」

 

 店の親父が、若干迷惑そうに俺たちの顔をのぞく。

 

「……いや、そろそろ閉店なんだが。年末だし……」

 気が付けば、周りの客は既に退散し、店の中には店主と俺たちだけになっている。

 だが、俺は叫ぶ。

「すまん親父、俺たちは年を越すため、どうしても、どうしてもこの肉を

 焼かなければならないんだ!! 焼き肉道を歩むものとして!!」

 

 その言葉に、親父は共鳴したかのように、熱い視線を俺たちに贈る。

 

「……わかった! わしも気がすむまで付き合うぞ!!」

 

 

 

 ……そのうえ二時間後

「あり、あり、あり、ありえない……」

 そこには、俺たちが数々焼いてきたなかで、最悪の炭の山ができあがっていた。

 

 イヒトが言う。

 

「僕なら、もっと完璧にやってみせますよ」

 

 

 

 ……またまた二時間後

「……全部炭じゃねぇか!?」

「逆の意味で完璧になってしまいましたわね……」

 

 俺たちは全員で、クロネを見る。

 

「残ったのは、お前だけだ……」

「クロネ……どうかアタシたちのカタキを……」

「……分かりましたわ」

 

 俺たちの言葉に、クロネは立ち上がる。

 そして店の親父さんの前に、6人分の代金を払うと、両手を合わせる。

 

「……店主さん。すみません……焼いて、下さいません?」

 

 それは、事実上のギブアップ宣言だった。

 

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 流石店主は、焼き肉道をゆくプロ中のプロ。

 その焼き加減は完璧というよりほかに、形容のしようがない。

 それほどまでに、精密な焼き加減を誇った。そしてその肉は……

 

「ウマいっ!!」

 

 絶品の一言。

 俺たちは真夜中、極上の料理に舌鼓をうつ。

 

「これが本当の焼き肉道……」

 

 つぶやく俺に、店主が笑いかける。

 

「いいや、あんたたちの行った、ほろ苦い炭の道、あれもまた焼き肉道。

 焼き肉に失敗はあっても、嘘も本当もありはしないさ」

 

 焼き肉道、それは俺たちがかんがえているよりもはるかに深く、険しい道なのかもしれない。

 

 

 

 満腹になった帰り際、店主が俺たちに一つ、箱を手渡す。

「これは……」

「ワシからの、お年玉だよ」

 

 それは、ドラゴンの高級霜降り肉だった。

「ウチはスタンプカードもやっていてな。

 6回で、この高級肉をプレゼントしているのさ。

 ま、一日で溜めるのは、後にも先にもお前さんたちくらいだろうが……」

 

 そういって、笑うのだった。

 

 

 

「あれ? お年玉……ってことことは!」

 そうだ、すっかり忘れていた、が、今日は年末。いや……

 

「あ! 朝日だ!」

 シュットが、明るむリューンの地平の向うを指さす。

「ああ、あけましておめでとう!」

 店主が、疲れ切った、しかし満面の笑顔で俺たちを見送った。

 

 こうして俺たちの新年は、焦げ臭いにおいとともに始まったのだった。