『若き狼の肖像』感想 | 平井部

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「至高の読書体験」って言うと、手垢のついた表現すぎてちょっと気が差すんですけれど、本書を読み終わった後のしみじみする余韻に浸ってたぼくの気持ちを的確に表すには、こう言うしかないです。

 

また一つ積み重ねられた。

 

 

二十一歳の若き犬神明の情念!!

 

自身の類稀なる能力を自覚しつつ、それをどこに向けて良いのかわからない、もどかしさと苛立ち。

 

胸裡に燃える、孤狼の誇りと孤独感。

 

味わい深すぎる。

 

そしてなんと言っても、郷子さまとの出逢いが詳かにされるこの喜び! 

 

例えば時を遡って「本能寺の変」を特等席で鑑賞できるとなったら喜ばれる向きも多いでしょうが、ぼくにとってはそれ以上に重要な地球史的案件をつぶさに味わせてもらう感涙体験に他なりませんでした。

 

 

言霊の呪術。

DVDに保存したいくらい、はっきり映像見えてた。

 

 

 

 

 

 

 

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それにつけても若き犬神明のヤンチャっぷり😂

 

冒頭の「弟愛の強すぎる」暴漢に激怒して、本気で轢き殺そうとする様子には大笑いさせられました😂 あのクレイジー・ブラザーズ、再登場して欲しかった😂

 

新月期🌑なのに、連日連夜の殴られまくり&撃たれまくり😂 お腹に銃弾二発食らって、輸血せんで大丈夫なんか。寝ときなさい。

 

常人なら一つ経験したらショックで数ヶ月寝込むレベルのトラブルを、平気な顔してダースほど抱えてみせる我らがウルフガイ 。

 

もはや「かっけ~」通り越しておバカなレベルですね。

 

 

話し言葉がしっかり60年代してるのも感動。

 

意図的にも書かれているのでしょうが、でもちゃんと60年代に生きてるヤンチャな犬神明が生命持って話してる。

 

ちょっと前に『ギターを持った渡り鳥』を鑑賞したのですが、あの荒唐無稽さを排除して、リアリティを増しましにした60年代の雰囲気。もうちょっとでビートルズやエレキがブームになって、時代がグイって動いてゆくあの雰囲気が、ありありと伝わってきました。

 

 

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二十一歳の大学生でありながら、赤坂のビルに事務所を構えて「学生トップ屋」として華々しく活動している犬神明。甲斐性あるなあ。

 

空調のない事務所内で、容赦ない口調で所長を責める事務員、田島昭枝とのやりとりを見ているだけでも楽しい。

 

平井和正自身、ルポライターの下について修行していた時期があるようで、その経験が下敷きになっているのかも。

 

この時、犬神明が住んでいる原宿のマンションも、同じ頃(ですっけ?)作者が住んでいて、後に筒井康隆に譲り渡したマンションと同じなのかも知れません。どこかですれ違ってたりして。

 

 

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三星家の執事河内老の依頼で、暴力組織から脅迫、さらに誘拐されてしまったと言う石崎郷子さまを救出すべく、動き出す犬神明。

 

同じ大学に通う二人、交友関係はなくとも、お互いにめっちゃ気にはなっていたようですね。

 

 

特に明の方は、郷子さまの美女すぎる外見とクールな物腰に反発を覚えていて、河内老にも

 

「ああいうタイプの無軌道な金持娘というのは反吐が出るくらい嫌いなんだ。郷子なんてのは、中でも最悪だね。化物みたいなもんだ。おれは実際おはようというだけの関係も持ちたいと思わんね」

 

 

なんて、直裁な言葉で言ってしまうのですが、でも言葉ほど酷い印象はなくって、同学年の美少女を「好きなんだろ?」ってからかわれた小学生みたいな可愛さがありますね。

 

 

河内老も、そうは言いつつ郷子さまの危機に全力で立ち向かってくれるであろう明の気質は多分お見通しで、もしかしたら、関東会の他に、“政財界のフィクサー”が動いていることも把握した上で、あえて犬神明当人に依頼を持ってきたのかも。あくまでも郷子さま本人に一番良い形で、事がおさまるように。

 

 

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美少女美由起の意を受けたチンピラが「慰謝料」を脅し取りに来ると言うお取り込みの中、事務所に降臨した郷子さま。今作ではここが初登場。まさにぞくぞくするくらいの存在感です。

 

 

ここで交わされる会話は、特に郷子さまのお言葉には、二重三重の意味合いが込められているはず。

 

二人とも胸裡は感動で震えてるはずなのに、この三次元でのミーティングではどう反応して良いのか分からなくて、言葉の上ではすれ違ってしまうのがもどかしい…。

 

明の方は「それを言っちゃあおしめえよ」的な言葉をどんどん吐いてしまって、それを受けて悲しげな郷子さま。

 

 

彼女が、無感動、冷淡に思われるのって、おそらく意識の大部分を波動の異なった高次元に向けてるからであって、そもそも常人とは見えてるものも、感じ方も違うんですよね。他人の感情生活が分からない。

 

 

勝手の知らない事務所を訪れて、ずっと好感を抱いていて、しかも自分のために肉体的苦難を受けることを厭わず、尽力してくれたと言う犬神明に初めて対峙することで、彼女なりに緊張しているし、心ときめかせていることもよく読んでみれば分かる。

 

 

なのに強情っぱりっ子の犬神明といえば、

 

 

「近づきになろうという気も時間も持ち合わせてないがね。」とか「好奇心か」とか「おれはお宅と今後いかなる関係も持ちたくない。こうやって話をするのも迷惑なんだ。それがわかったらさっさと帰ってくれ!」とか…

 

 

お、お前は…

 

その右腕のモリで開けられた穴に指突っ込んでグリグリするぞっ!!

 

 

常人なら数回は死ぬレベルの肉体的被害を被ったのに、全部自分の責任として受け止め、それで知り得た特ネタも記事にするつもりは全くない…って、それだけでも大した人物な訳じゃないですか。

 

郷子さまとしては、感謝をなんとか形に表したくて、明のプライドも考えた上で「口止め料」として金銭の譲与を申し出るものの、明はキッパリと拒絶する。

 

 

なんだかそれぞれの「やむにやまれぬ思い」がひしひし伝わってきて、涙出そうになる😭

 

明は明で、友情を感じているからこそお金を受け取りたくなかったのかも知れない。

 

 

「あなたはわたしのことに手を出すべきではなかったわ。今更いっても詮ないことだけれど……あなたはもう巻きこまれてしまったのよ。すでにあなたの人生は、これまでのようにはいかなくなってしまったわ」

 

 

郷子さまのこの意味深な言葉…。

 

「絶大な権力を持つ“フィクサー”に目をつけられた」事もあるのでしょうが、それだけではなくって、スピリチュアル的に“古代神の憑代”である二人が出逢う事で、何か霊的なスイッチが入ってしまったと言う事なのかも知れません。

 

 

「あなたがわたしについてなにを知っているというの?」

 

安易に示した明の同情に対して、郷子さまは少し感情を荒げる。

 

「暴力団の手に落ち、手を回した三星財閥と話がついて解放された」…と言うだけでは、「何も知らないに等しい」と…。

 

 

 

もっともっと悲惨な、辛い現実が、郷子さまに降りかかっていたと…。

 

郷子さまを良く思わない三星内部の者たちが、郷子さまを貶め、追放するために手飼いの暴力団を使ったとか…。

 

ルポライターの和田某が持ち込んだ、FX、自衛隊次期主力戦闘機に関する話題も、全くの無関係とは思えなくて、もしかしたら郷子さま、米国含めた国家的な陰謀にも巻き込まれていて、明の介入で偶発的に命を救われていた…なんて言う裏展開も、あったのかも知れません。そこはちょっと読んでみたかった。

 

 

続きまっす