『人狼天使 第三部 魔王の使者』 その2
爆弾魔の正体に関して、ダニーの直感から「オルテガ」というテロ犯の名前が浮上し、尻尾をつかむためにプエルト・リコのギャング団に接触する。
一目見るなりアニキに熾烈な暴虐心を燃え立たせるチコという若者。アニキの昔の恋人で『人狼戦線』で囚われの身となったあのチコと同じ呼び名な彼ですが、アニキの巧妙な誘導によって、後方から暗黒波動を送っていた魔王を表面意識に出すことになる。
ここで明らかになったのが、立て続けに起こる憑霊現象はやはり偶然ではなくって、「アニキの能力に依るもの」だったんですね。「悪魔を引き寄せる力」と。
「天上界に与えられた」とアニキは思っていますが、元々持っていた能力が顕現化したんだと思います。魔族の恨みを買わせたら右に出るものなし😂
組織のトップ、ファン・カルロスは、美青年であり、「真実を見通す力」を秘めた天才である。
彼に大きな影響を与えた、姉ドローレスとの関係は、東丈、三千子、姉弟を想わせるものがあります。
爆弾魔オルテガを巡る、アニキとカルロスの攻防は、二重三重の思惑が張り巡らされていて、まことにスリリングでした😂 ニューヨークを拠点とする暴力組織の運営が、一筋縄ではいかないことがよく分かります。
護衛を全て退けた、二人きりの会話。
天才的な革命家と黄金の心を胸に秘めた狼男。
なかなか本心は覗かせない会話ではありますが、簡単に理解者は得られない境遇の二人だからこその、友情が芽生えたようにも思えます。
アニキの誕生日が6月6日というのは知ってたんですが、明らかになるのはこのシーンだったんですね。
カルロスが同じ誕生日であるという事実も、きっと偶然ではないはず。
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オルテガと対決する為に、カルロスが用意した倉庫街にあるロフトに身を寄せるアニキ。
ニューヨークに来てから、アニキにおとずれた変調。“聖痕”が癒えなかったり、満月時なのにアルコールを美味いと感じたり、空腹を覚えたり。
戦闘能力や不死性は衰えていないようなので、アニキがここで感じているように「月の運行のリズムが、おれの肉体に対して直接的な影響を減じている」ということで、むしろ全体的にはアップデートされているように思えます。
もしかしたら、満月に関係なく、狼男の不死性を常態のものとして活用できるようになっているのかも。
ニューヨークの磁場が影響したとか、地下世界で魔王たちと接触して潜在能力が顕在化したとか、不死性の原泉は高次元世界にあるとはっきり気づいた為とか、色々要因は考えられます。
ロフトに現れるプエルト・リコの少女リタ。
元祖ツンデレって感じでめちゃ可愛いですね😁
優秀すぎる姉と兄を持った屈折を心に秘めていて、アニキの黄金の心に触れたら一気に変容しそう。少年ウルフに登場したエリノア・ハンターみたく、重要なキャラクターに育つ可能性プンプンで、ぜひその後の彼女も見てみたかったですね。
アニキ自身が囮となったロフトに、オルテガ自身は現れなかったものの、チコを含めた組織中の不穏分子は見事におびき出され、アニキに一蹴される。
しかしチコが装着していた爆弾が炸裂し、カルロスはなんとか一命を取り留めたものの、彼の腹心数名は爆死してしまう…。
ここにおいても、一行の命を救ったのはファーマーの予知能力であり、かなりの精度ですよね。彼を含めた総員が、来るべき決戦に備えてバージョンアップしているように思えます。
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ガヴィの部屋で新たに出会ったのが黒人青年のクロード・ブラック。彼にもある種の予知能力があって、アニキの身に「何かが起こるんじゃないか」と告げる。
こうやって、心霊世界に興味がある人物が集って、それぞれに変容してゆく展開は、やっぱり『幻魔大戦』を想わせますね。
ガブリエルとジュディの変節は、すごく親愛の持てるキャラクターだっただけに悲しかったです。
“心の眼が開けた”と言うジュディ。
アニキに対峙する彼女を侵食してしまっている優越感。
確かに人の心を読む超能力は進化しているようですが、ステラ本人、もしくは彼女に繋がる機関から、何らかの情報を得ているようにも感じられます。
現実情報に「天使トーク」を絶妙に交えてくる彼女の言葉がうそ寒い…。
言葉の上だけアニキを持ち上げながら、「自分が導いてやる」と言う優越感はにじみまくっている。
「悪魔崇拝者の中にいれば、影響を受けるし、彼らは洗脳が巧みなのよ。あなたが思っているように、マイクは前のマイクじゃない。顔は同じでも心の中はすっかり別人に変わってしまっているかもしれないのよ」
これはジュディの言葉ですが、「マイク」を「ジュディ」に変換すれば、彼女に起こったことがそのまま透けて見える気がします。
アニキに対しては、まだ遠慮もあったようですが、エディ経由でアニキを頼ってきた、スチュワーデスの同僚ロージーの話では、ジュデイさん、まさに江田四朗クラスの悪辣っぷり…。洗脳だけじゃなくって、憑依も疑われるほどの、高圧な鬼女っぷりです…。
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そして『天使』篇での強敵、オルテガとのラストバトル。
寒風吹き荒ぶハドソン河の七十九号埠頭。
「船でマイクが到着する」と言う情報を目敏く察知したオルテガが、単身現れてバズーカー砲をぶっ放す。
アニキとの肉弾戦。
ここでオルテガは物理的に「巨大化」していて、スパイラル・ビルで闘った不気味ちゃんもオルテガだったことはほぼ間違いなしです。想像を超えた憑依現象…。
既に死を迎えて、黒魔術によって力を与えられていたオルテガの肉体は、これまでのような圧倒的な化け物感は欠いていて、アニキの用意した手榴弾によって粉々の肉片と化す。
「おれは死なんぞ、きっと戻ってくる。すぐにな」
最後にそう言い残したこの化物の本体、いったいどんな存在なんでしょう。
根本的な解決にはなってないとはいえ、オルテガと言うカルロスの政敵、マイクの暗殺者であった存在は排除することができ、一応の解決を見る。
カルロスが用意した祝宴で、ジュデイとガヴィがはっきりと、自分とマイクを“悪霊憑き”であると、中傷、誹謗し始めたことを知るアニキ。
具体的な対策はしないと言うアニキを、エディは「弱腰、無責任」であると非難する。
アニキを指導者として慕い、行動を共にしたい者たちがいることと、それを「自分の役目ではない」と拒否するアニキ。
もしかしたら、狼男としての肉体労働だけではなく、導師として人の前に立つ役目もあり得るのかもしれなくて、この場面での討論には、深い意味があるように思えます。
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そして『天使』篇の最終幕に対峙することになるのは、占い師“ステラ”。
彼女からディナーに招待されていたこと、ギリギリになるまで忘れていました。
待合室で襲われる強烈な睡魔にあえて身をまかせ、いくばくかの眠りの後に囚われていたのが、数知れぬ人間たちのリアルな呪念によって形成された「暗黒世界への関門」だった…。
生きていた時の呪いをそのまま内部に封じ込めた、数千の髑髏に取り巻かれて…って、もう怖すぎる…。
常人ならおそらく秒で悶死してしまうほどの猛烈な魔の磁場…。
「救いを求めても無駄なことよ、ウルフ。この魔の磁場は、あなたの生命力を奪い、力を封ずるために、特別に用意された檻なのだから」
これはブラフではなく、本当にアニキを無力化し、地下世界に連れ込んで“改心”させんとする周到な計画が準備されてきて、まさに成功しかかっていたことが分かります。どれだけ重要人物なんだ。
アニキの生死を分けたのは、「他者への思い遣り」でした。
自分がこのまま地下世界へ行くことの条件として、「ジュディとガブリエル、さらに矢島絵理子から手を引く」ことを挙げる。
なぜか感情を荒げるステラは、美しき魔女 矢島絵理子へと物理的に変貌を遂げる。
この後、矢島絵理子は数万の悪霊たちに「無差別憑依」されていると明かすのですが、きっと「魔の依代」となった絵理子の内部には生々しいステラの魂が封じ込められていて、肉体的にも精神的にも、ステラそのものに変貌することができるんでしょう。どれだけ物凄い黒魔術なんですか…。
アニキとの対話によって“黄金の心”に触れ、あんなに激しかった憎悪が自らの裡にもはや存在しないことに気づく絵理子ですが、魔族に魂の奥底まで蝕まれた彼女にはアニキのあったけー手を掴むすべはなく、一人で暗黒の異世界に消えてゆく…。
『人狼天使』切なすぎるエンディング…。
ここは、イエス・キリストの「荒野の誘惑」を想わせる、重要かつスリリングなシーンでした。
『人狼天使』がこれ以降描かれなかった理由として、アニキは絵理子を救う為に、自ら地下世界に飛び込んだんじゃないか…って考えてたんですが、ラストシーンを読む限りでは、ちゃんとしっかり現界に残ってますね。
まだまだこの物質世界での闘いは、用意されていたはず。
アニキ、犬神明は、これからどこに向かうのか。
予想される今後の展開と、回収されなかった伏線のことなど、次回考えてみたいと思います。