書影。ウルフ会版の数年後に発刊された、リム出版バージョン。
このリム出版バージョンの順に、以下個別に感想書いて行きます。
『虎はねむらない』
本書中では、最もエンターテイメント性が高い、一人称のハードボイルド小説。
作者も後書きインタビューで述べているように、アダルト・ウルフガイのプロトタイプとしても読めますね。主人公の「おれ」に、「郷子」も登場。
あるひき逃げ事件をもとに、大金を得ようと画策する主人公と郷子。
シリーズ化されていれば人気小説間違いないほどの完成度ですが、平井作品のメインキャラを張るには、“虎”くんではちょっと物足りなかったんだと思います。
あとは“黄金の心”
待ち……って感じでしょうか。
『夜の干潮』
いやこれ、読後のセツナミン濃度ハンパないっす…😭😭
胸に迫る、うらぶれた横須賀の情景。
何気ない描写から、自動車工場の工員である主人公が、やっと手に入れたささやかな幸福を、どんなに大切に抱きしめているか、痛いくらいに伝わってきます。
女性そのものに複雑な怨みを抱き続ける主人公 靖。そんな兄を慕う可憐な少女あや。そして二人を捨てた母親である、水原早苗。
まずセリフが素晴らしい。
「いい思い出の他はみんな忘れたよ。いい思い出なんて一つもねえがね」
って……。石原裕次郎に言わしたら女子みんな泣くでしょう😭😭
十数年ぶりに再会する、母と息子……。
悲しみの果てに、すっかり心を硬化させた靖の言葉は、母早苗の胸に突き刺さってゆく。
靖の心情を、直接描写するのではなく、セリフや行動でじんわり理解させる遣り方は素晴らしい。
そして迎える、切なすぎるエンディング😭😭
あそこをああしていれば……なんて、詮無い想いがいくつも湧いてくる、やるせない余韻が胸に満ちてます。
今作を読むと、平井和正が山本周五郎の直系の子孫であることがしみじみわかりますね。
名作です❗️❗️
ちなみに、石原裕次郎は「私にとっての唯一のヒーロー」であったと、ある予備校の小冊子に掲載されたインタビューで、平井和正は述べてましたね。『夜の干潮』、裕次郎主演で映画化されたら、きっと映画史に残る名作になったろうなあ。
長くなるのでゆっくり行きます