『虎はねむらない』感想 その1 | 平井部

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ひょんなタイミングから『虎はねむらない』再読。

 

美味すぎる❗️❗️

 

面白い❗️❗️

 

 

ほとばしる若き平井和正の怒り❗️❗️

 

収録作の一つ『サノファビッチ』ってタイトルからも分かるように、これってパンクロックなんすね❗️❗️ 熱気溢れるライブハウスで激しいビートに全身を殴打されてるみたいな「熱」を、どの行間からもビシビシ感じる❗️❗️

 

怒ってる❗️❗️

 

平井和正怒ってる❗️❗️

 

 

特に『サノファビッチ』なんか、銃撃みたいなドラムビートをバックにギターかき鳴らしてシャウトするロックスターを、最前列で眺めてるみたい❗️❗️

 

和正の、怒りが、哀しみが、祈りが、魂に響く❗️❗️

 

 

今気づいたけれど、平井和正とビートルズってデビューが同じ1962年❗️❗️ 本格的なロックの胎動期に平井和正は創作を初め、ビートルズがハンブルグやキャバーンクラブで猛烈に下積んでたまさにその時期に、この作品たちは書かれたんだ。

 

 

『見知らぬ者に百合はない』で、愚連隊の青年隆志がギターで “ラ・クンバルシータ” を弾いて見せるシーンは象徴的です。その音色を聴いて初めて、人質の少女は、身も凍るような孤独を抱えているのは、決して自分だけではないことを知るのです。

 

 

 

書影。これは最初に出版されたウルフ会版。

 

 

 

 

なんとサイン入り❗️

 

 

 

 

 

 

 

 

『虎はねむらない』は、平井和正唯一の「のんSF作品集」で、ほとんどが本格的にSF小説に取り組む以前、中央大学ペンクラブ時代に書かれた中短編です。

 

 

「歴史を学ぶには優れた小説を読め」という平井和正の言葉の通り、50年代後半から60年代初頭にかけての空気感、風俗、街の情景、そして何より暮らす人々の情念が、鮮やかに伝わってきます。

 

特に平井和正の郷里であり、戦後米軍が駐留していたという特別な事情を持つ横須賀に関しては、迫真の描写がなされています。複雑という以上に、怨念にも似た感情を持って郷里を見つめる平井和正の姿は、そのまま、母親、異性、社会、自己……等々に対する怨念を抱き続ける、作中のキャラクターに重なります。

 

 

 

滅菌済のライトな創作物に慣れた視点からはショッキングなほど直截な、侮蔑の言葉が飛び交います。

 

米兵と娼婦との間に産まれたハーフたち、在日朝鮮人、犯罪を犯して故郷から爪弾きにされた男……おそらく平井和正が実際に目にしてきたと思われるアウトサイダーたちが全身から滲ませる、怒りと苦悩……。

 

 

暴力が描かれながら、不思議と透明な読後感が残るのは、筆者が被差別者たちに感情移入し、ほとんど彼らと同化するほどに怒りを「自分のもの」として味わい、その上で決して怨念に呑まれず、一つ一つの心の動き、行動を冷徹に吟味した上で、作品へと昇華している為だと思えます。

 

日本社会の歪みというよりも、人間存在そのものが蔵する闇をはっきり見つめ、それをえぐり出す。

 

「何故?!」という魂の問いかけは、他の凡百の作品から平井作品をはっきりと分かつ特徴であり、それが既に表れています。

 

 

また、後に花ひらく平井キャラクターの原型が見て取れるのもファンにはたまらない。

 

 

「初期衝動」という言葉だけではとても言い表せない、飛躍に至る前の平井和正の煩悶が刻み込まれている、いろいろな意味で見逃せない作品集です。

 

 

 

次回、作品個別の感想っす照れ