[10]
3年前、私にとって、とても辛い体験があったの。
ユウキが結婚することが決まったの。
お相手の名前はハツキさん。漢字、分からない。
ハツキさん、にゃんこと生活するのは初めてなんだって。
私にとっても、初めての人。とても緊張した。
今では、良い関係だけど、初めて会った日のこと、忘れられないよ。

ユウキから、
「僕のお嫁さん。ハツキって言うんだよ。」
って、紹介された時、電気が走ったような気持ちだった。
だって、ユウキが結婚するなんて、考えていなかった。
ユウキはずっと、お父さんとお母さんの子供だから、ひとりだって、信じていた。

私が怯えていたら、ユウキが私を抱っこして、ハツキさんに手渡したのだけど、
私もビックリしたし、嫌だったし、
ハツキさんもにゃんこの抱え方を知らなかったから、
お互いに緊張して、私がハツキさんを蹴り飛ばして、飛び降りちゃった。
何よりも、ビクビクしているから、安定感なんて何にも無い。

ユウキは方法を変えて、
私の大好きなキラキラのおもちゃを出してくれて、
最初はハツキさんの前で、ユウキと遊んだの。
ちょっと緊張だったけど、楽しく遊べた。
だけど、おもちゃがハツキさんの手にわたると、
私は遊ぶのをやめちゃった。
ハツキさんのおもちゃの振り方、私の好みじゃ無いもの。
楽しくなんて、ちっとも思えない。
ユウキが手を取って、
こうするの!って、話したり、実演したりしているけど、
私には、楽しくなかった。
今から思うと、ハツキさんのことを信用していなかっただけだと思う。

それを見ていたおばあちゃんが、
「ティアは、自分がユウキのお嫁さんだと考えているところがあるから、
ハツキさん、1番を譲ってあげてね。
ねこの世界では、そんな風に考えるの。
それから、香りで家族を判断するから、
強い香水をつけるのを避けてね。
ティアはユウキの側に居たいのだから、
ユウキの側に強い香りの人が居ると、
拗ねちゃいますよ。」
そう言うのを聴いて、私は、バンザーイ!って、思っていたの。

そこへ、長い瞑想から目を開けたかのようにおばあちゃんが、
「ハツキさん、ユウキからティアのおやつを貰って、与えてみませんか?
手渡しはハードルが高いから、お皿だとどうかなぁ?」
抱っこから遊びにおやつまで、おばあちゃんの部屋での出来事。
理由は、私がハツキさんを避けていたから。
そこへ、ユウキと一緒におやつを取りに行っていたハツキさんが戻って来た。
そして、私が一番大好きな鰹風味のカリカリをお皿へと出してくれた。
私が喜んでおやつを食べている間に、ユウキが手をチェックしたので、
私も手の香りをチェックした。
薔薇の人工的な香りがした。私には苦手な香り。どうしよう?などと考えていたら、
「この香りは、ティアが苦手としているから、お母さんのハンドクリームを紹介するよ。」
などと、私から見れば、満額回答の言葉を紡いでいる。

お母さんの手の香りは、私も気に入っているから、
ユウキの機転に、しばらくは甘えようと考えて、ホッとした。
この時は知らなかったけど、
ずっと一緒に過ごすのだから、
ハツキさんとふたりという時間だと、その時こそ破滅する。気持ちが決壊する。
誰の考えか知らないけど、私が愛するユウキと、にゃんこを知らないハツキさん。
ユウキには、バランスを保つのは難しい。だから、どうするか?
多分、おばあちゃんの意見かな?
ハツキさんも、納得出来たようだし、
これからの生活にも役立って欲しいと思っているのは、私だけなのかしら?

ユウキが私との生活を選んだから、
自動的にハツキさんもこの家に住むことになって、
ユウキの部屋と元妹さんの部屋の仕切りを取って、広い部屋になっている。
何でも、お母さんが専業主婦だから、
ハツキさんには働いて欲しいって、
ユウキが考えたのだって。

ユウキもハツキさんも25歳で、貯蓄が少ないことが理由だと聞いたよ。
「貯蓄?」って、何のこと?
おばあちゃんに私が悩んでいる内容が、
上手く伝わって欲しいって、
今は、考えています。
何よりも私は、
「ニャン!」しか言えないことが、トラウマ。
他の家猫さんは、どうなのかな?「ニャン!」で、コミュニケーションが取れるのかな?

私と家族のコミュニケーションは、私の尻尾。
私の返事が『YES』だったら、パタパタと大きく元気に振るし、
『NO』だったら、パサっと1回だけ。
質問が分からなかったら、尻尾を振らないというのが、暗黙の了解。
いつから、こうだったのかな?
考えてみると、名前を決める時から、尻尾で返事をしていたの。
「ティア」って、呼ばれて、
盛大に尻尾を振っていた記憶があるよ。
私もお気に入りの名前だったしね。

ユウキの部屋はね、ベッドも新しいものに変わって、家具も大きく入れ替えがあって、
カーテンやベッドのカバーがピンクに変わった。
ユウキの机も新しくなって、学習机から立派な机に変わったし、
ハツキさんが持ち込んだ机は小さくて、大きな鏡が付いている。
ここに乗ってはいけないと、ことある毎にユウキやハツキさんに念押しされるけど、
色んな香りが気になって、乗ってはクンクンしている。

鏡には、茶色と黒や焦げ茶の混ざったしましま。真っ白の口もととお腹。
靴下を履いたような手足。
私のこと。
確かに、私の背中やお腹はツヤツヤして、体調の良さというか、栄養状態が良さそう。
ピーンと伸びたおヒゲ。ユウキが立派だっていうのが良く分かる。
口もとの白さも綺麗だし、マズルと言われるおヒゲの生えているところ、
大人にゃんこになってふっくらしてきたって言われていたけれど、それも、初めてゆっくり見た。
これらはユウキが小さな鏡で、私を写して見せてくれていたから、私がにゃんこだって、知っていたけれど、こんな模様で、こんな体だって、初めて自覚した。

私は、毎年の予防接種の時に体重のコントロールをしてもらっている。
お医者さんが言うには、今の体重がベストなんだって。
今の体重より増やしてもいけないし、減らしてもいけないって。
ユウキやハツキさんが、朝と夕方のご飯を用意してくれるけど、ちょうど腹八分っていうのかな?満腹よりもちょっと少なめ。
それでも、私は嬉しいの。
ユウキやハツキさんから貰えるのが嬉しいの。

それにね、ご飯に下部尿路疾患対策のご飯を食べているのは、先住ねこのあいちゃんが尿路結石を何回も起こしたからだって。
何度もトイレに入るのに、ちっちが出なくて苦しんでいたそうなの。
だから、私が同じ苦しみを味わうことが無いように、気をつけてくれている。

ハツキさんと私、段々とだけど、仲良くなれたよ。
何度も何度も抱っこして貰ったり、撫でて貰ったり、おもちゃで遊んで貰ったり、今は、緊張せずに付き合っているよ。
何よりも、ユウキの部屋にはハツキさんがいる。
仕方無いから2人の間で寝ていたの。
そうしたら、ハツキさんもゆっくりだけど、私が気持ちいい事をしてくれるようになったの。
楽しい生活に、ようやくなれたの。
今は、気持ち良く過ごせているの。