
吉本隆明さんが2001年に毎日新聞社から刊行した「日本近代文学の名作」の文庫版が新潮文庫から出版された。(2008年7月刊)。現著作は、眼を悪くしている吉本さんは自ら原稿用紙に向かうことができないために、毎日新聞の大井浩一さんと重里徹也さんが聞き語りを構成して仕上げたものだ。
当時は、朝日、毎日、読売という日本の3大新聞には絶対書かなかった吉本さんが初めて毎日新聞と組んで日本文学について語ったことが大きなニュースだったが、同時に‥‥
戦後の日本の知の基盤を作ってきた吉本隆明という存在が、近代文学をどう見ているかの批評的視点が注目を集めた。一体、日本の近代文学とは、何処までで区切られるのか? 吉本さんが夏目漱石を、森鴎外を、太宰治を、小林秀雄をどう評価しているか‥。
例えば私の大好きな詩人萩原朔太郎の「月に吠える」を取り上げている章では、朔太郎が近代詩から現代詩への転換点に位置した詩人として位置づけている。その表現における生理的心理主義的表現を、それまでの倫理的構造的表現を重視していた詩の韻律を排除した最初の作品だと指摘しているのですね。
そのなまなましい表現や、モチーフの分断が全体の詩の中で連関している詩作が現代詩への架け橋となっているということでょうか。
こように吉本さんのこの一冊は、近代から現代への転換点を見据えた批評が多く見られてとても勉強になります。時代の転換を記録する文学作品の存在。そして長く名作として読まれていく文学作品が秘めている普遍性。そのあたりが読み取れて(聞き取れて?)楽しい一冊です。
では名作とは何か?
本著の中で吉本さんは、太宰治に触れつつ、こんな風に解説してくれています。
‥優れた作家の作品の特徴は‥読む者に
「これが分かるのは自分だけだ」と思わせるところがある。
それが古典の名作の条件だといえる。
多くの読者が「自分だけが分かる」心情を物語ることができる作品‥
現代小説の中のどの作品が、こういう視点を持っているか‥
そんな文学作品の楽しみ方もあるのですね‥。
さて‥‥。