陸上競技と薬物疑惑 商業化するスポーツと純粋性を考える | 考える道具を考える

考える道具を考える

The instrument which I think

 私は陸上競技のファンである。

 学生時代には、自ら陸上競技に没頭した。陸上競技の魅力に取り付かれた一人でもあった。

 何が、そんなに楽しいのか? 選手時代には、そんなことは考えていなかったのは当然だった。ただひたすら走ること、そのこと自体が楽しかったのですね。

 そして、強くなりたいという欲求は、日々大きなものとなり、そのためにはトレーニングを徹底して強化することしか、当時は方法はなかったが、必死で苦しい練習に耐えた。その根源には、他の選手より少しでも速くゴールに飛び込みたい‥‥そんな競争意識が要因になっていたと思う。

 私は長身であったが、筋肉質ではなかった。ひょろっとしているだけで、筋肉自体の能力? は先天的にはなく、ウェイトトレーニングで筋肉をつけることで、速く走れる肉体を作り上げようとした。特に上半身の機能に弱点があり、走りの後半にバランスを崩してしまうことが多かった。

 その時、‥‥本気になって、筋肉が欲しいと願ったことを記憶している。

 ‥‥

 科学的トレーニングが陸上競技に取り入れられるようになったのは、アメリカからだったでしょう。もともと素質のある人材を選別して、科学的に作り上げられていくシステムの整っているアメリカでは、筋肉増強剤などの薬物を投与して、磐石の「走る道具」の開発に余念がなかった。

 そして、2000年のシドニーオリンピックで三つの金メダルをとった女子短距離界の王者マリオン・ジョーンズが、クリオという筋肉増強剤を使っていたことを告白したことが話題になっている。ティム・モンゴメリ、ジャスティン・ガトリンという男子短距離界の世界記録保持者たちもまた、同様の薬物使用疑惑で陸上界を去っているが、これらのスターを生んだ同じコーチが、トレバー・グラハム氏であることは知られている。

 スポーツが商業化され、選手、コーチ、スポンサー、薬品企業などの総合的なプロジェクトチームが作動している「商品開発」は、ますます節度を失い、勝つための道具づくりを増加していくのだろうな‥と思っている。しかし、薬物を使用した選手は、長生きしない。人間から機械に作り変えられてしまうのだから、人間としての寿命をまっとうすることができないのは当然だろう。

 こうした流れは、‥‥私が没頭した陸上競技の世界にはなかった。私がファンとしてこの競技が好きなのは、人間が走っているからなのだと、改めて思うのでした。