ペルソナ‥仮面の美学を考える | 考える道具を考える

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能面
 ペルソナという言葉の響きに、何故かずっと拘りつづけているのです。

 概念定義という固いことを言えば、「ペルソナ(Persona)とはカール・グスタフ・ユングの概念。ペルソナという言葉は、元来古典劇において役者が用いた仮面のことであるが、ユングは人間の外的側面をペルソナと呼んだ。」(Wikipedia)となるのでしょう。

 英語のパーソナルの原語となっているペルソナは、最も一般的には、「仮面」と訳すのが分かりやすいでしょうね。

 ‥‥

 ところで、私の友人に、趣味で能面を彫っている人がいます。彼は、20代から、まったくの趣味で、能面を彫り続けてきたという。その数、数え切れない‥らしい。

 そしてある日、私が彼の工房を訪ねたことがありました。丁度、彼は、一心不乱に作業しているところでした。そして、その姿に心打たれながら、しばし声をかけられないでいました。

 一時して、手が止まった時、彼は私がすぐそばにいることに初めて気がついたようでした。次の瞬間、彼が振り向いた時、私は二度目の驚きで、腰を抜かしそうになったのです。

 そう、‥‥彼は、能面を彫る時に、自分で彫った「能面」を顔につけながら作業をしていたのでした。振り向き様の彼の表情は、文字通り「能面の顔」だったのです。

 ‥‥

 「何故能面を彫り続けているかは分からない。」彼は話してくれました。「でも、ある時、自分が彫っている時の姿を鏡で見てしまったんですね。その姿は、まるで自分とは思えなかった。特に、その形相は‥。」

 爾来、彼は、作業をしているときの自分が、自分とは思えなくなり、能面を彫る時に、能面をつけるようになったそうです。

 ‥‥

 以来、私は、ペルソナという言葉にとり憑かれたようになってしまったのです。そして、鏡を見るとき、いつもどきどきしてしまうのです。自分の顔が、能面になっているのではないかと‥‥。私も、自分が生きるためには、仮面をいくつも用意しておく必要があるんだな‥と思ったのでした。

 ‥‥

 そして、今、私はあまりに沢山の仮面を付け替えてきたために、本当の自分の顔がどれなのか、分からなくなっているのです。誰か、鏡をかしてくれませんか?

(写真は、伊庭貞一氏作)