詩仙堂の初夏 夢の続き | 考える道具を考える

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The instrument which I think

詩仙堂
 中年になって、私は、京都詩仙堂に行った。

 5月。初夏の京都は、一人で旅するには最適な季節だ。

 私は、青年の頃の自分に、もう一度出会いたいと思ったのかもしれない。その時の詩仙堂には、不思議な中年との出会いがあって、私は自分を取り戻せたように思えたからだ。私が生き続けられたのも、もしかしたら、そのときに異常接近してきた中年のお陰かもしれない‥。

 ‥‥

 中年になった今の私の足にも、詩仙堂への小道は快適だつた。出町柳駅から懐かしい電車に乗った。平日の静かな午後。

 電車の中で、私は色白の青年を見かけた。その青年は、俯き加減の長身で窓の外をぼんやり眺めながら座席に坐っていた。何処かで見たような顔だった。

 ‥‥

 偶然、その青年が詩仙堂に向かっているのを小道でみかけた。「ああ、あそこに向かっているのだな‥。」

 しかし、その青年の顔色は健康的とは言えなかった。「これが青年期の憂鬱という表情か‥。私の昔も、あんな感じだったな。」などと思いながら、私は、その青年と歩調を同じようにとっている自分に気がついた。青年は、時々、私のほうを振り返っているように思えた。

 「それにしても、危険な雰囲気だ。」その青年に、微かな死の匂いがする。「注意深く観察していないと、この青年は詩仙堂で、何かとんでもないことをするかもしれない。」

 何故そんな事を思ったのかは分からない。堂の門をくぐり、詩仙の間に入ると、庭園を眺めている青年が、電車の時と同じように、ぼんやりと坐っている。私は直感した。この青年は、この庭園を前にして、自分を断ち切ろうとしているのかもしれない。咄嗟に私はその青年に声を掛けた。「この青年を救わなければ‥。」

 ‥‥

 「一人ですか?」 私は、その青年に聞いた。
 「見ればわかるでしょ?」 青年はぶっきらぼうに答えた。

 「ここ、いいですよね?」 私は、会話を続けなければならないと焦っていた。
 「何か用ですか?」 青年は詰問するように聞いた。

 私は、その口調の強さに一瞬たじろいだ。次の言葉は、自分でも変な一言だった。
 「一緒に居ていいですか?」

 「一人旅なんです。構わないでくれませんか?」そう言い放つと、その青年は、白じゃりの庭園に飛んで出た。そこで、持っていた刃物のようなもので自分を切りつけた。その血栓は、庭を赤く染めた。

 「青年を救わなければ!」‥‥‥そして、私は二度目の夢から醒めた。