ショートショート その2 「お目覚めの後の新宿散歩」 | 考える道具を考える

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 何年振りか‥私は新宿の雑踏を歩いていた。

 昔の新宿は、ファッションも街並みも、街路樹も、そして通り過ぎる全ての人が、時代を先取りするという意欲においては一つの方向性を持っていたように思えた。しかし、今のこの街は、一人ひとりがバラバラで、通り過ぎて行く若い人もお年寄りも、皆が違う方向に向かって歩いていこうとしているように感じる。

 風が四角く吹いているようだ‥。

 「あれっ? 佐々木さんじゃない?」 
 すれ違い様に突然声を掛けられた。

 「えっ?」 私は振り向いた。でも、一瞬、声を掛けてきた人が誰なのか分からなかった。何処かに、見覚えがないか、瞬間的にその人の顔を睨んだのかもしれない。その人は、少し身を引いた。
 (でも、確かに私の名前を呼んだな‥)

 「ああっ、えっと、‥すいません、どなたでしたっけ?」
 「何だ、いつ戻ったの?」
 「えっ? 戻った?」
 「そうさ、すっかり時代の寵児になったんだよね‥。でも、あの事故で、宇宙船が行方不明になったってニュースで見たけど、大丈夫だったんだね。」
 「あの事故?」
 
 ‥‥‥

 私が宇宙に行った? それは何かの間違いだろう。そんな事あるはずがない。私はただのサラリーマンだ。最近の新宿は、こんな新手の詐欺みたいなことをする輩がいるのかもしれないな‥。私は、そう思って‥
 「ああの、人違いだと思いますよ‥はは。では‥」

 足早にその場を立ち去ろうとした私の背後から、その人の声が聞こえてきた。
 「‥‥佐々木! 君は佐々木なんだろ? 違うのか?」
 何故私の名前を呼ぶんだろう? 再び振り向いた時、もうそこには、その人は居なかった。

 ‥‥‥

 担当医師からの質問は、いつも同じものだった。

 「それで‥‥‥ふむ、新宿で声を掛けてきた人は、どんな顔をしていましたか?」
 私は答えた。
 「それが‥顔ですよね‥見覚えはないのですが、でも、とても他人には思えなかったんです。」

 「そう。」医師は質問を続けた。
 「それで‥‥‥ふむ、佐々木さん? 佐々木さん? 佐々木さん? あなたは、どこに行ってきたのですか?」